消化器外科の特徴

 消化器外科では現在10名の医師を中心に診療に当たっています。当院は東神戸地域の基幹病院であり、当科は地域で発生する外科疾患を治療することで地域の皆様の健康と生命を守るべく努力しております。当科で診療する主な疾患は、食道がん・胃がん・大腸がん・胆嚢がん・膵臓がんなどの悪性疾患や、胆石症・鼠径ヘルニア・急性虫垂炎などの良性疾患です。現代の医療は、各病態に応じた専門性 の高い診療が求められています。当科も高度な医療を提供させていただくため、上部消化管、肝胆膵、下部消化管の各領域ごとに担当医を設け、治療方針を決定し診療にあたっています。治療方針は診療ガイドラインなどを参考に、消化器内科、放射線診断科とカンファレンスを行いながら決定しています。患者さんの年齢や併存疾患なども考慮して、最善の医療を提供できるよう心がけています。

 消化器外科領域では腹腔鏡あるいはロボットシステムを用いた手術が増加しています。当院でも胃がん・結腸がんでは鏡視下手術を、直腸がんではロボットを積極的に導入しております。ロボットを含めた腹腔鏡下外科手術の最大の利点は、創が小さく術後の疼痛が少ない、臓器機能の回復 が早く早期の経口摂取ができる、腹腔鏡の拡大視効果によってより精緻な 手術が可能となることなどです。 ロボットを含めた腹腔鏡下外科手術により入院日数も短くなり、早期に手術前の生活に復帰することを目指しています。

 当院は2021年4月1日に国指定のがん診療連携拠点病院に認定されました。がん診療連携拠点病院では専門的ながん医療の提供、がん診療の地域連携協力体制の構築、がん患者・家族に対する相談支援及び情報提供等を行うことが可能です。当科では消化器がんに対する手術を中心に診療を行いますが、手術だけでは治癒が困難な場合や術後に再発した場合には、抗がん剤治療の専門である腫瘍内科、 放射線治療の専門である放射線治療科と連携し、総合的ながん診療を行っています。

 救急医療にも力を入れており、24時間救急に対応し、緊急手術も可能な体制をとっています。神戸市内を中心に芦屋市・西宮市などの近隣地域からも治療が必要な患者さんを受け入れております。今後も地域の救急医療へ貢献してきたいと考えております。

代表的な疾患

 神鋼記念病院の消化器外科では、消化器がんの外科治療腹部救急医療を中心に下記の疾患に対して診療を行なっています。

食道がん、食道アカラシア、胃がん、十二指腸がん、胃・十二指腸潰瘍、消化管GIST、結腸・直腸がん、結腸憩室炎、腸閉塞、急性虫垂炎、腸閉塞、鼠径・大腿ヘルニア、腹壁瘢痕ヘルニア、閉鎖孔ヘルニア、痔核・痔瘻、直腸脱、肝細胞がん、転移性肝がん、肝嚢胞、肝内胆管がん、肝外胆管がん、胆嚢がん、胆嚢結石、総胆管結石、乳頭部がん、膵がん、膵管内乳頭粘液性腫瘍、嚢胞性膵腫瘍、慢性膵炎

消化器がんの外科治療

(1)胃がんの外科治療

 胃がんは日本においては比較的罹患数が多いがんであり、また死亡者数は男性では大腸がんについで第2位、女性では第4位(2018年人口動態統計によるがん死亡データ)であり、適切な治療が重要となります。神鋼記念病院では胃がんに対して、上腹部の外科を専門とする医師二人を中心に診療にあたっています。外科医師だけでなく放射線科診断医・内視鏡専門医・化学療法医・病理医と共同で診断・治療を行うことで、個々の患者さんに最適な治療を目指しています。

 当科では日本内視鏡外科学会技術認定医が在籍し、胃がんの治療にも腹腔鏡下手術を積極的に取り入れています。腹部に1cmほどの創を4〜5カ所、病変を取り出すための5cmの創を1カ所おくことで手術を行います。これらの創からお腹の中に挿入したカメラ(腹腔鏡)からモニターに映し出された画像を見ながら、腹腔鏡手術用の器具を挿入して手術を行います。手術部位を拡大して見るため微細な解剖がわかりやすく繊細な手術操作が可能になります。開腹手術と比べて出血量が少ない、傷が目立たない、術後の痛みが少ない、低侵襲(ていしんしゅう)である、社会復帰が早いなどの利点があります。以前は早期がんのみがその対象でしたが、現在では進行がんにもその対象を広げています。2022年度は87%の症例に腹腔鏡下手術を行なっています。

胃がんの治療について

(2)膵がんの外科治療

 当院では膵臓の手術は膵がんを中心に膵嚢胞性病変や神経内分泌腫瘍などの良性・境界悪性病変などに対し手術を行っております。

 膵がんは周囲の神経組織などに浸潤して広がりやすいため、膵がんの手術では開腹して周囲組織を含めて膵切除術(膵頭十二指腸切除術、膵体尾部切除術)を行うことを基本としています。低悪性度膵疾患や小さな膵がんに対しては腹腔鏡での膵切除手術も施行しております。また、膵臓のすぐ裏には脾動静脈とよばれる脾臓を栄養する血管が走行しており、膵体尾部切除術を行う場合は脾臓を合併切除するほうが手術は簡単にすみますが、良性病変に対しては脾動静脈を残して脾臓を温存する腹腔鏡下脾動静脈温存膵体尾部切除術も施行しております。

(3)肝臓がんの外科治療

 肝切除を行う疾患の代表的なものは肝細胞がんです。最近は小さながんに対しては経皮的ラジオ波焼却術(RFA)を行うこと多くなっていますが、腫瘍が肝表面に露出していたり血管に接していたりする場合は安全性や治療効果の面から肝切除の方が有効です。2番目に多い肝切除の対象疾患は転移性肝がんです。大腸がんからの転移が一番多く見られます。切除可能な転移性肝がんには積極的に肝切除を行っており、その手術件数も増加傾向となっています。

 肝切除術は従来は開腹手術が一般的でしたが、5年前から腹腔鏡下手術で行うことが多くなっています。開腹手術では右の肋骨に沿って大きく開腹する必要がありましたが、腹腔鏡手術の場合は5~6カ所のポート創のみで行いますので、術後の疼痛も軽度で早期の退院が可能となります。肝部分切除術を中心に、可能な症例では片葉切除までを腹腔鏡で行っています。
 手術の前には画像解析ソフトによる手術シミュレーションを行っています。これは術前のCT画像情報をもとに動脈や門脈、肝静脈などの脈管を描出し3次元画像を作成するもので、手術前に肝臓の立体構造を把握することで切除範囲を決定したり、手術の安全性を評価するのに役立ちます。術前シミュレーション画像をもとに、術中エコーやICG造影蛍光イメージングなどの術中診断法を併用しながら実際の肝切除範囲を決定し過不足のない手術を行っています。

肝胆膵悪性腫瘍の手術について

(4)大腸がんの外科治療

 一部の早期がんを除く大腸がんにおいては、治癒を目指すためには手術が必要となります。ロボットや腹腔鏡を用いた低侵襲手術、がんが周囲に進展している場合は他臓器合併切除を伴う拡大手術、手術前の抗がん剤治療など各々の患者さんに応じて最適な治療を計画します。

ロボット(daVinci surgical system)による直腸がん手術

 2017年度から当院ではdaVinci surgical systemを用いた直腸がん手術を行なっております。多関節のロボットアームにより、今までの腹腔鏡での手術では困難であった骨盤深部での繊細な操作を可能としています。そのため骨盤深部に分布する排尿を司る自律神経を温存するのに適した手術であると言えます。ロボット手術では、術後の痛みが少ない、低侵襲であるという腹腔鏡の利点はそのままに、腹腔鏡に比べて直腸がん術後に生じることが多い排尿障害を減らすことが可能となります。

結腸がんに対する腹腔鏡手術(ロボット手術)

 結腸がんに対しても腹腔鏡下手術を積極的に取り入れており、およそ80%を腹腔鏡下手術で行っています。また2023年からロボットでの結腸がん手術を開始します。

腹部救急疾患の外科治療

 当科では東神戸地域の腹部救急疾患患者の治療にあたっております。外科医もオンコール体制をひいており、他科との連携を保ちながら、疾患の早期診断、必要があれば緊急手術を行っています。
 疾患としては胆嚢炎、虫垂炎、胃・十二指腸潰瘍穿孔、腹膜炎、腸閉塞など多岐にわたる外科救急疾患の緊急手術に対応します。

胆嚢結石症、急性胆嚢炎

 当院では、胆嚢結石症、急性胆嚢炎などに対して昨年度1年間で125例の 胆嚢摘出術を行っています。 最近は、炎症の強い急性胆嚢炎症例に対しても積極的に腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行しており、 98%を腹腔鏡下におこないました。胆嚢の状況に応じて腹腔鏡手術の中でも孔の数がすくない単孔式手術や、一つ 一つの孔を小さくする細径鉗子を用いた手術も行っています。

胆嚢の手術について

急性虫垂炎

 急性虫垂炎は外科救急疾患の代表的なものです。炎症の程度などを考慮し、手術を行うか、手術を行わずに保存的加療(抗生物質による 内科的治療)を行うかを決定しています。当院では虫垂炎に対し年間70例程度の虫垂切除術を施行しています。全例で腹腔鏡下手術を、また炎症の状況に応じて腹腔鏡手術の中でも創の数がすくない単孔式手術も行っています。

虫垂炎について

その他の疾患

鼠径ヘルニアの治療

 2022年度の手術実績では、鼠径ヘルニア症例が年間155例と県下では有数の鼠径ヘルニア手術実施施設となっています。腹腔鏡下ヘルニ ア修復術を中心に、ヘルニアの種類・併存疾患・性別などを考慮し、メッ シュを使わない修復法や前方アプローチによるメッシュ修復法 (Lichtenstein法・Direct Kugel法)など最適な手術方法を選択して手術を行っています。

鼠径ヘルニアの手術について

直腸脱の外科治療

 社会の高齢化に伴い、骨盤底筋の脆弱化により生じる直腸脱が増加しています。この病気は生命を脅かす病気ではありませんが、生活の質を大きく損なう病気です。また痔核や直腸粘膜脱といった疾患と異なり、肛門からの手術では再発することが多いため、腹腔鏡を用いて脱出する直腸を吊り上げて骨盤壁に固定する腹腔鏡下直腸固定術で治療することが望ましいとされています。当院では2018年からこの手術を開始しています。直腸が脱出することで肛門の痛みや不快感に悩んでいた方が、症状から開放されることで非常に喜んでいただいています。

消化器外科の取り組み

腹部救急ホットライン

 当科では2013年5月から「腹部救急ホットライン」を創設しました。これは、当院外科スタッフがスマートフォンを常時携帯し、救急病院や近隣で開業されている先生方から 、急性腹症に対する手術や検査が必要であると判断された場合に、直接電話でご相談を受けるシステムです。 これにより腹部救急疾患の患者さんの受け入 れを迅速かつ適切におこなうことが出来るようになっています。ホットラインの開設から約10年が経過し、近隣の先生方からの緊急手術のご依頼が増えてきています。

高齢の方への外科治療

 日本人の平均寿命の延長に伴い、当科においても80才以上の方への手術が増加しています。高齢者の場合、消化器がんが比較的進行した状態で発見されることも多いため、根治性も大事ですが術後の生活の質も重要であると考えています。手術のみならず、抗がん剤や放射線などの治療法についても呈示し病状を十分ご理解いただいた上で治療をおこなっています。

所属医師のご紹介

東山 洋 病院長
京都大学 昭和57年卒業
取得資格
(専門医・認定医等)
  • 日本外科学会認定医・指導医
  • 日本消化器外科学会認定医・指導医
  • 日本肝胆膵外科学会高度技能指導医
  • 消化器がん外科治療認定医
  • 日本肝胆膵外科学会評議員
所属学会
  • 日本外科学会
  • 日本消化器外科学会
  • 日本肝胆膵外科学会
藤本 康二 副院長兼外科部長  【消化器センター長】
神戸大学 昭和62年卒業
取得資格
(専門医・認定医等)
  • 日本外科学会認定医・専門医・指導医
  • 日本消化器外科学会認定医・専門医・指導医
  • 日本肝胆膵外科学会高度技能指導医
  • 日本肝胆膵外科学会評議員
所属学会
  • 日本外科学会
  • 日本消化器外科学会
  • 日本肝胆膵外科学会
上原 徹也 部長
京都大学 平成3年卒業
取得資格
(専門医・認定医等)
  • 日本外科学会専門医
  • 日本消化器外科学会専門医・指導医
  • 近畿外科学会評議員
所属学会
  • 日本外科学会
  • 日本消化器外科学会
  • 日本救急医学会
  • 日本臨床外科学会
  • 日本内視鏡外科学会
  • 日本癌治療学会
  • 日本肝胆膵外科学会
  • 日本食道学会
  • 日本胸部外科学会
  • 近畿外科学会
前田 哲生 科長
近畿大学 平成16年卒業
取得資格
(専門医・認定医等)
  • 日本外科学会専門医
  • 日本大腸肛門病学会専門医
  • 日本内視鏡外科学会技術認定医(消化器・一般外科・大腸)
  • 日本がん治療認定医機構認定医
所属学会
  • 日本外科学会
  • 日本消化器外科学会
  • 日本大腸肛門病学会
  • 日本臨床外科学会
  • 日本内視鏡外科学会
  • 日本ロボット外科学会
小松原 隆司 科長代行
神戸大学 平成18年卒業
取得資格
(専門医・認定医等)
  • 日本外科学会専門医
  • 日本消化器外科専門医・指導医
  • 日本がん治療認定医機構がん治療認定医
  • 消化器がん外科治療認定医
所属学会
  • 日本外科学会
  • 日本消化器外科学会
  • 日本臨床外科学会
  • 日本内視鏡外科学会
  • 日本肝胆膵外科学会
光岡 英世 医長
神戸大学 平成20年卒業
取得資格
(専門医・認定医等)
  • 日本外科学会専門医
  • 日本消化器外科学会専門医
  • 日本内視鏡外科学会技術認定医(消化器・一般外科・ヘルニア)
  • 日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医
所属学会
  • 日本外科学会
  • 日本消化器外科学会
  • 日本内視鏡外科学会
  • 日本臨床外科学会
  • 日本肝胆膵外科学会
  • 日本ヘルニア学会
口分田 亘 医師
香川大学 平成27年卒業
取得資格
(専門医・認定医等)
  • 日本外科学会専門医
所属学会
  • 日本外科学会
  • 日本消化器外科学会
  • 日本内視鏡外科学会
  • 日本臨床外科学会
  • 日本大腸肛門病学会
谷川 優麻 医師
岡山大学 平成28年卒業
取得資格
(専門医・認定医等)
  • 日本外科学会専門医
  • 日本消化器外科学会専門医
  • 日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医
  • 日本DMAT隊員
  • ICLSインストラクター
所属学会
  • 日本外科学会
  • 日本臨床外科学会
  • 日本消化器外科学会
  • 日本内視鏡外科学会
宮部 秀晃 医師
徳島大学 平成29年卒業
取得資格
(専門医・認定医等)
  •  
所属学会
  • 日本外科学会

学会認定施設

  • 日本外科学会外科専門医制度修練施設(指定施設)
  • 日本消化器外科学会消化器外科専門医基幹研修施設
  • 日本消化器病学会消化器病専門医基幹研修施設

研究活動業績

診療実績

消化器外科の症例実績については、下記のPDFファイルをご覧ください。