消化器外科の特徴
消化器外科では胃癌や大腸癌、膵癌などの悪性疾患、胆嚢結石や鼡径ヘルニアなどの良性疾患、虫垂炎や腸閉塞・消化管穿孔などの救急疾患などに対する外科治療を行っています。現代の医療は、各病態に応じた専門性の高い診療が求められています。当科もそれに即してより高度な医療を提供させていただくため、 上部消化管、肝胆膵、下部消化管の各領域ごとに担当医を設け、治療方針を決定し診療にあたっています。
治療方針は診療ガイドラインを参考に、消化器内科、放射線診断科と定期的にカンファレンスを行い決定しています。患者さんの希望や年齢、併存疾患なども考慮して、その人それぞれにとってなにが最善なのかをよく検討し、最善の医療を提供できるよう心がけています。総合病院ですので多くの診療科がそろっており、併存疾患のある患者さんに対しても各科専門医師の協力のもとにチーム体制で診療に当たります。
特に近年は高齢の患者さんの割合が増加しており、術前から体力が落ちていたり、栄養状態が悪化していることもよく経験されます。そのため単純に病気がなおればよい、というのではなく、場合によっては縮小手術を行う、手術以外の治療を選択するなど「病気の根治性」と「体力の温存」のバランスを考えることが大切になってきます。周術期を通して栄養管理やリハビリを積極的に行って体力を維持すること、退院後の生活を視野に入れ地域の包括ケアセンターとの連携にも力を入れています。
消化器外科領域では腹腔鏡による手術が増加傾向しており、当院でも胃癌・大腸癌を中心に積極的に鏡視下手術を導入しております。腹腔鏡下外科手術の最大の利点は、創が小さく術後の疼痛が少ない、臓器機能の回復が早く早期の経口摂取ができる、腹腔鏡の拡大視効果によってより精緻な手術が可能となるなどさまざまなメリットがあります。 入院日数も短くなり、早期に手術前の生活に復帰することが可能です。
当院は兵庫県指定がん診療連携拠点病院に指定されています。この兵庫県指定がん診療拠点病院とは兵庫県内においてがん診療機能の充実を図り、安心かつ適切ながん診療を提供できると認められた医療機関です。当科では消化器癌に対する手術はもちろんのこと、手術だけでは治せない場合や術後に再発してしまった場合も、抗癌剤治療の専門である腫瘍内科、放射線治療の専門である放射線治療科と連携し、総合的な癌診療を行っています。
また救急医療にも力を入れており、24時間365日救急対応・緊急手術が可能な体制をとっています。神戸市内を中心に芦屋市・西宮市・三田市などの近隣地域からも治療が必要な患者さんを受け入れしており、昨年は163件の緊急手術を行いました。今後も地域の救急医療へ貢献してきたいと考えております。
当科では2013年5月から「腹部救急ホットライン」を創設しました。これは、当院外科スタッフがスマートフォンを常時携帯し、 救急病院や近隣で開業されている先生方から 、急性腹症に対する緊急手術や吐・下血などで緊急の検査・処置が必要であると判断された場合に、 直接電話でご相談を受けるシステムです。 これにより腹部救急疾患の患者さんの受け入れを迅速かつ適切におこなうことが出来るようになっています。 ホットラインの開設から約6年が経過し、他院からの緊急手術のご依頼が増えてきています。
代表的な疾患
現在当科では以下の疾患に対して診療をおこなっています。
- 食道疾患:食道がん、食道アカラシアなどの良性疾患
- 胃・十二指腸疾患:胃がん、十二指腸癌、胃・十二指腸潰瘍、消化管GIST
- 小腸・大腸疾患:結腸・直腸がん、憩室炎 腸閉塞、クローン病、潰瘍性大腸炎、急性虫垂炎、腸閉塞
- ヘルニア:鼠径・大腿ヘルニア、腹壁瘢痕ヘルニア、閉鎖孔ヘルニア
- 肛門疾患:排便機能障害、痔核、痔瘻、直腸脱
肝疾患:肝細胞がん、転移性肝がん、肝内胆管細胞がん、肝のう胞、肝膿瘍 - 胆道疾患:肝外胆管がん、胆嚢がん・ポリープ、胆嚢結石、総胆管結石、乳頭部がん
- 膵疾患:膵がん、膵管内乳頭粘液性腫瘍、嚢胞性膵腫瘍、 慢性膵炎
- その他:尿膜管膿瘍、内臓動脈瘤、中心静脈ポート留置など
食道がん
食道がんに対する治療方針は、がんの周囲臓器(気管、大動脈、心嚢など)への浸潤の有無とリンパ節転移の程度により決定されます。 当科では、これらの進行度評価をMDCT、MRI、EUS、FDG-PETなどで的確に行い、治癒切除を目標に術前化学療法の必要性も含めて個々の症例ごとにきめ細やかに治療方針を決定しています。
手術は3領域リンパ節郭清を基本とし、胸腔鏡下食道亜全摘、胸骨後経路あるいは後縦隔経路による胃管(または結腸)再建を行っています。
胃がん
すべての症例についてその局在・進行度を評価し、「治療ガイドライン」に準じて治療方針を決定しています。胃がん手術においても積極的に鏡視下手術をおこなっており、2018年度には幽門側胃切除43例中30例(70%)を腹腔鏡下におこないました。また早期のがんを中心に縮小手術も行っており、患者さんごとに最適な治療を選択しています。
結腸・直腸がん
結腸・直腸切除に対する手術は年々増加しており、2018年度は結腸切除81例、直腸切除・切断36例、骨盤内臓器全摘 2例、年間119例の大腸手術をおこないました。そのうち、鏡視下手術の割合は、結腸切除75%、直腸切除・切断94%となっています。
一方、大腸がんの再発に対する治療も積極的に行っています。特に肝転移に対する肝切除術および直腸がん局所再発に対する手術に関しては、 外科治療により根治が目指せるため、手術は重要な治療と位置づけて診療をおこなっています
排便機能障害・痔核・痔瘻・直腸脱
肛門から数センチの部位にある直腸癌は、従来、人工肛門の造設を余儀なくされていましたが、当院では、根治性を損なわずに肛門を温存する術式 (肛門括約筋間切除術:ISR)を積極的におこなっています。下部直腸癌に対して肛門を温存する手術では、術後の排便機能が患者さんのQOLを左右する大きな問題です。 この術後の排便機能や慢性便秘の問題に対して2014年9月から排便機能障害外来を新設し、科学的に大腸および肛門機能を評価し治療をおこなっています。
肛門疾患にも様々な種類があり、いわゆる痔と言われている3大疾患(痔核・痔瘻(肛門周囲膿瘍)・裂肛)や直腸脱などがあります。症状が気になっても受診しづらいと考えられる方も多い領域の病気ではありますが、正しく診断し治療することで手術をせずによくなることもあります。また、ただの痔だと思っていても癌が隠れていることもあり、症状がすぐに改善しない場合は一度診察を受けておくことが大切です。
肝胆膵悪性腫瘍
肝胆膵悪性腫瘍に対する化学療法の進歩に伴い、従来は切除不能と判断されていた脈管浸潤を有する膵癌や胆嚢癌のなかで、 抗癌剤治療が奏功し切除手術が可能となる症例がでてきました。私たちは、「癌遺残なき切除」をめざして、 適応があれば積極的に血管合併切除・再建を含めた拡大手術をおこなっています。
また、肝細胞癌あるいは転移性肝癌に対しては、症例を選択した上で腹腔鏡下切除手術をおこなっています。
胆嚢結石・胆嚢炎・胆嚢ポリープ
当院では、胆嚢結石症、急性胆嚢炎などに対して年間100~120例の胆嚢摘出術を行っています。 最近は、炎症の強い急性胆嚢炎症例に対しても発症早期であれば腹腔鏡下に胆嚢摘出術を施行しており、 2018年度には胆嚢摘出108例中106例(98%)を腹腔鏡下におこないました。また希望に応じて腹腔鏡手術の中でも孔の数がすくない単孔式手術や、一つ一つの孔を小さくする細径鉗子を用いた手術も行っています。
急性虫垂炎
急性虫垂炎は外科救急疾患の代表的なものです。重症度や患者さんの希望を考慮し、手術を行うか、手術を行わずに保存的加療(抗生物質による内科的治療)を行うかを決定しています。当院では虫垂炎に対し年間70~80例の虫垂切除術を施行しています。全例で腹腔鏡下手術を、その約半分程度でキズの小さな単孔式腹腔鏡手術を行っています。
鼠径ヘルニア
2018年度の手術実績では、鼠径ヘルニア症例が年間168例と県下における有数の鼠径ヘルニア手術実施施設となっています。腹腔鏡下ヘルニア修復術を中心に、ヘルニアの種類・併存疾患・性別などを考慮し、メッシュを使わない修復法や前方アプローチによるメッシュ修復法(Lichtenstein法・Direct Kugel法)などそれぞれの患者さんにとって最適な手術方法を選択して手術を行っています。
中心静脈ポート留置
在宅療養において誤嚥性肺炎や腸管麻痺などで経口摂取が困難で、点滴による栄養管理が必要な患者さんや、がんに対する化学療法目的の患者さんに対し中心静脈ポートの留置を行っています。中心静脈ポートは鎖骨下留置用・上腕留置用のものや、採血や造影CTに対応可能なものなど数種類用意しており、ご希望に合わせて留置を行っています。
消化器外科の取り組み
腹部救急ホットライン
当科では2013年5月から「腹部救急ホットライン」を創設しました。これは、当院外科スタッフがスマートフォンを常時携帯し、救急病院や近隣で開業されている先生方から 、急性腹症に対する緊急手術や吐・下血などで緊急の検査・処置が必要であると判断された場合に、直接電話でご相談を受けるシステムです。 これにより腹部救急疾患の患者さんの受け入れを迅速かつ適切におこなうことが出来るようになっています。ホットラインの開設から約4年が経過し、次第に近隣の先生方からの緊急手術のご依頼が増えてきています。
排便機能障害外来の新設
肛門から数センチの部位にある直腸癌は、従来、人工肛門の造設を余儀なくされていましたが、当院では、根治性を損なわずに肛門を温存する術式(肛門括約筋間切除術:ISR)を積極的におこなっています。下部直腸癌に対して肛門を温存する手術では、術後の排便機能が患者さんのQOLを左右する大きな問題です。この術後の排便機能や慢性便秘の問題に対して2014年9月から排便機能障害外来を新設し、科学的に大腸および肛門機能を評価し治療をおこなっています。
高齢者手術
近年、日本人の平均寿命の延長に伴い、当科においても80才以上の高齢者手術が増加しています。高齢者の場合の消化器癌では、比較的進行した状態で発見されることも多く、 根治性とQOLのバランスが重要であると考えています。ご本人、ご家族に、手術のみならず、抗がん剤や放射線などの治療法についても呈示し病状を十分ご理解いただいた上で治療をおこなっています。
所属医師のご紹介
- 東山 洋 病院長
- 京都大学 昭和57年卒業
-
- 取得資格
(専門医・認定医等) -
- 日本外科学会認定医・専門医・指導医
- 日本消化器外科学会認定医・専門医・指導医
- 日本肝胆膵外科学会高度技能指導医
- 消化器がん外科治療認定医
- 日本癌治療認定医機構暫定教育医
- 日本肝胆膵外科学会評議員
- 日本医師会認定産業医
- 所属学会
-
- 日本外科学会
- 日本消化器外科学会
- 日本肝胆膵外科学会
- 日本臨床外科学会
- 取得資格
- 藤本 康二 副院長兼外科部長 【消化器センター長】
- 神戸大学 昭和62年卒業
-
- 取得資格
(専門医・認定医等) -
- 日本外科学会認定医・専門医・指導医
- 日本消化器外科学会認定医・専門医・指導医
- 日本肝胆膵外科学会高度技能指導医
- 日本肝胆膵外科学会評議員
- 所属学会
-
- 日本外科学会
- 日本消化器外科学会
- 日本肝胆膵外科学会
- 取得資格
- 石井 正之 部長
- 自治医科大学 平成2年卒業
-
- 取得資格
(専門医・認定医等) -
- 日本外科学会専門医
- 日本消化器外科学会専門医・指導医
- 日本大腸肛門病学会専門医
- 所属学会
-
- 日本外科学会
- 日本消化器外科学会
- 日本大腸肛門病学会
- European Society of Colo-Proctology
- 取得資格
- 上原 徹也 部長
- 京都大学 平成3年卒業
-
- 取得資格
(専門医・認定医等) -
- 日本外科学会専門医
- 日本消化器外科学会専門医・指導医
- 近畿外科学会評議員
- 所属学会
-
- 日本外科学会
- 日本消化器外科学会
- 日本救急医学会
- 日本臨床外科学会
- 日本内視鏡外科学会
- 日本癌治療学会
- 日本肝胆膵外科学会
- 日本食道学会
- 日本胸部外科学会
- 近畿外科学会
- 取得資格
- 前田 哲生 医長
- 近畿大学 平成16年卒業
-
- 取得資格
(専門医・認定医等) -
- 日本外科学会専門医
- 日本大腸肛門病学会専門医
- 日本内視鏡外科学会技術認定医(消化器・一般外科・大腸)
- 日本がん治療認定医機構認定医
- 所属学会
-
- 日本外科学会
- 日本消化器外科学会
- 日本大腸肛門病学会
- 日本臨床外科学会
- 日本内視鏡外科学会
- 日本ロボット外科学会
- 取得資格
- 小松原 隆司 医長
- 神戸大学 平成18年卒業
-
- 取得資格
(専門医・認定医等) -
- 日本外科学会専門医
- 日本消化器外科専門医
- 日本がん治療認定医機構がん治療認定医
- 消化器がん外科治療認定医
- 所属学会
-
- 日本外科学会
- 日本消化器外科学会
- 日本臨床外科学会
- 日本内視鏡外科学会
- 日本肝胆膵外科学会
- 取得資格
- 光岡 英世 医長
- 神戸大学 平成20年卒業
-
- 取得資格
(専門医・認定医等) -
- 日本外科学会専門医
- 日本消化器外科学会専門医
- 日本内視鏡外科学会技術認定医(消化器・一般外科・ヘルニア)
- 日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医
- 所属学会
-
- 日本外科学会
- 日本消化器外科学会
- 日本内視鏡外科学会
- 日本臨床外科学会
- 日本肝胆膵外科学会
- 日本ヘルニア学会
- 取得資格
- 口分田 亘 医長
- 香川大学 平成27年卒業
-
- 取得資格
(専門医・認定医等) -
- 日本外科学会専門医
- 所属学会
-
- 日本外科学会
- 日本消化器外科学会
- 日本内視鏡外科学会
- 日本臨床外科学会
- 日本大腸肛門病学会
- 取得資格
- 谷川 優麻 医師
- 岡山大学 平成28年卒業
-
- 取得資格
(専門医・認定医等) -
- 日本外科学会専門医
- 日本消化器外科学会専門医
- 日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医
- 日本DMAT隊員
- ICLSインストラクター
- 所属学会
-
- 日本外科学会
- 日本臨床外科学会
- 日本消化器外科学会
- 日本内視鏡外科学会
- 取得資格
- 宍戸 裕 医師
- 広島大学 平成28年卒業
-
- 取得資格
(専門医・認定医等) -
- ECFMG certificate
- 所属学会
-
- 日本外科学会
- 日本呼吸器外科学会
- 日本肺癌学会
- 日本大腸肛門病学会
- 日本消化器外科学会
- 取得資格
- 宮部 秀晃 医師
- 徳島大学 平成29年卒業
-
- 取得資格
(専門医・認定医等) -
- 所属学会
-
- 日本外科学会
- 取得資格
学会認定施設
- 日本外科学会外科専門医制度修練施設(指定施設)
- 日本消化器外科学会消化器外科専門医基幹研修施設
- 日本消化器病学会消化器病専門医基幹研修施設