消化器外科 / 肝臓がんについて

肝臓がんについて

 肝臓を構成する細胞には、栄養分の貯留や蛋白の合成、アンモニアなどの有害物の分解など、肝臓本来の機能を果たす「肝細胞」と、肝細胞が作る胆汁という消化液を流す胆管を形作る「胆管細胞」があります。肝細胞ががん化したのが肝細胞がん、胆管細胞ががん化したものが胆管細胞がんで、この2つが原発性肝がんの大部分を占めます。このうち95%が肝細胞がんで、2番目に多い胆管細胞は4%にとどまっています。肝細胞がんはウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、非アルコール性脂肪肝炎などによる慢性肝炎や肝硬変といった肝細胞の障害を背景として発症します。
 肝臓がん自体は自覚症状がないことが多く、検診や他疾患の検査として行われた超音波検査やCT検査で発見されることがほとんどです。肝臓がんの進行度Stageは、がんの大きさや個数、転移の有無や範囲で決定されるため、腹部超音波検査、CT検査、MRI検査、PET検査などの画像検査所見から、がんのStage評価を行います。腫瘍マーカーは血液の検査で、肝細胞がんではAFP、PIVKA-Ⅱ、AFP-L3分画が、肝内胆管がんではCEA、CA19-9が上昇するため、両者の鑑別に有用なことがあります。ただし、がんができていてもこれらのマーカーがいずれも陰性であったり、逆にがん以外の理由でも上昇することもあることから、診断は画像所見も踏まえて総合的に判断する必要があります。
 また、肝臓は余力(予備能)の大きな臓器で、通常、肝機能に問題のない方は最大能力の30~40%しか使用していません。しかし、肝硬変や慢性肝炎になり肝機能が低下してくると、普段は大丈夫でも手術で肝臓を切除した際に余力がなくなってしまい肝不全になる可能性が出てきます。そのため肝臓がんの治療法の決定には、がんの進行度だけでなく、肝予備能が重要になります。肝機能の評価によく使用される方法として「Child-Pugh(チャイルド・ピュー)分類」や「肝障害度分類」があります。いずれも肝機能をA、B、Cの3段階に分類するもので、AからCへと進むにつれて、肝障害の程度は強まります。臨床症状や画像所見・血液検査所見などを用いて評価を行います。

肝細胞癌の治療

 肝細胞がんの治療には、手術、局所穿刺療法(ラジオ波熱凝固療法やエタノール注入療法など)、肝動脈(化学)塞栓療法、化学療法、放射線治療などがあります。治療は肝がん診療ガイドラインの治療アルゴリズムに基づいて、肝予備能(肝機能がどのくらい保たれているか)や、肝臓以外の臓器に転移があるか、脈管(門脈、静脈、胆管)への広がり、がんの個数、大きさなどの状態に応じて決定します。

手術

 診療ガイドラインでは、切除手術が推奨されるのは、がんが「1~3個」の場合で、「4個以上」の場合には他の治療が推奨されていますが、例外もあることから、患者さんごとに手術が最善の手段かどうかを検討します。がんは肝臓の深いところにあるほど、手術に伴って取り除かれる肝臓の量が多くなります。そのため、肝臓の機能がよくない場合には、切除するのが難しくなることがあります。また、がんが主要な血管などに入り込む脈管侵襲があると、それによって手術ができないことがあります。
 肝臓の手術は難易度が高い手術ですが、術前の画像シミュレーションや手術手技・器具の進歩により腹腔鏡下手術も安全に行われるようになってきました。かつては手術しやすい部位の肝臓がんを対象としていましたが、2016年から解剖学的切除にも腹腔鏡下手術が保険適用され、当院でも手術の適応を拡大してきています。
 腹腔鏡下手術と開腹手術は、アプローチの方法が違うだけで、肝臓に対して行うことは基本的に同じであり、腹腔鏡下手術のほうが、がんが治りやすいというわけではありません。ただし、腹腔鏡下手術が無理なく安全に行えるのであれば、傷が小さい、痛みが軽い、回復に要する期間が短い、といったメリットがあります。

穿刺局所療法

 肝臓内の腫瘍を皮膚から細い針で穿刺し、針の先端でラジオ波を発生させて熱凝固を形成することで腫瘍を焼灼するラジオ波熱凝固療法(RFA)が最も一般的に行われています。3㎝以下の比較的小さな腫瘍に対して行われ、手術に比べて体への負担が少ない治療です。ただし、肝臓は腸管や心臓など重要な臓器と接しているため、肝臓の表面の腫瘍をラジオ波治療すると、周囲臓器を損傷して出血や腸穿孔を起こすことがあり、腫瘍の場所によっては小さな病変であってもラジオ波熱凝固療法が適さない場合があります。また、ラジオ波熱凝固療法の他に、従来からの穿刺局所療法として経皮的エタノール注入(PEI)がありますが、周囲臓器への影響は少なくなるものの、ラジオ波熱凝固療法ほどの有効性はないとされています。

肝動脈塞栓療法(TAE)

 がんに栄養を運んでいる動脈を詰まらせることでがんを死滅させる治療です。正常の肝組織は、酸素の多い肝動脈と、栄養物の多い門脈という2つの血管で養われていますが、進行した肝細胞がんは肝動脈のみで養われます。動脈が詰まると正常な肝組織は門脈からの血流でのみでも生き延びることができますが、肝細胞がんは大きなダメージを受けます。実際の治療では、動脈を詰まらせる物質に抗がん剤を混ぜてさらに効果を高めています。治療を行う際には足の付け根の太い動脈から細いカテーテルを肝動脈の枝まで進め、がんに近い部位から抗がん剤と塞栓物質を流し込んで治療します。

薬物療法

 がんが肝内に多発していたり、すでに遠隔臓器に転移している場合には、薬物療法の適応となります。近年、肝細胞がんに対し有効な薬剤が増えてきており、著効することもしばしば経験します。当初切除不可能と判断されていても、治療への反応によっては手術が可能となることもあります。

肝内胆管癌の治療

 肝内胆管がんについては、外科手術が唯一根治の見込める治療法です。腫瘍が肝臓に限局し、かつ手術後に肝機能を維持できるだけの十分な量の肝臓が残せる場合に、手術を行います。外科手術の適応がないと判断される場合には、薬物療法を行います。外科手術後に再発をきたした場合には薬物療法の適応となりますが、再発形式によっては放射線治療を併用することもあります。
 胆管がんの手術は、肝細胞がんと異なり、リンパ節に転移しやすいという特徴があり、肝切除に加えて転移が起こりやすいリンパ節を一緒に取り除くリンパ節郭清(リンパ節の切除)を同時に行います。

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