消化器外科 / 直腸脱とは

直腸脱とは

 近年、高齢化に伴い骨盤底筋群の脆弱による疾患が増加しています。これらは良性疾患ですが、患者さんのQOLを大きく損なう疾患です。骨盤底筋群は骨盤の底を支える筋群であり、子宮や膀胱、直腸などを支えています。骨盤底筋群の脆弱によりこれらの臓器が脱出するものを骨盤臓器脱と呼び、脱出する臓器によって直腸脱、子宮脱、膀胱瘤などに分類されます。骨盤臓器脱のうち、直腸が肛門から脱出する疾患を直腸脱と呼びます。直腸脱には直腸粘膜の一部が脱出する不完全直腸脱と直腸壁が全層性に脱出する完全直腸脱があります。
 先天的な要因(直腸の固定不全やS状結腸の過長など)に慢性的な負担や老化に伴う骨盤底筋群の脆弱化が加わることで発症するとされています。女性は出産や便秘症での慢性的な息みによって骨盤底筋群の障害を生じやすいため、高齢の女性に特に多く発症します。

症状について

 最も多い症状は腸の脱出症状で、「なにかが出ている。」と訴えられる方が多いです。脱出は排便時だけでなく、物を持ち上げようとした際や咳、くしゃみなどでも起こるようになります。その他にも肛門痛や失禁、出血、粘液による下着の汚染などもQOLを低下させる原因となります。また直腸が脱出しているため適切に排便することが難しいため、便秘の症状で苦しまれる方も多くおられます。

治療について

 症状が軽度な場合はリハビリや排便習慣の改善などを行いますが、ある程度進行した場合には手術が必要となります。手術は大きく分けると①経会陰手術と②経腹手術の2種類があります。

  1. 経会陰手術としてはGant-三輪-Thiersch法・Delorme法・Altemeier法などが代表的です。これらの術式は腰椎麻酔や局所麻酔で施行可能なため、併存症などで全身麻酔が困難な患者さんでも施行することが出来ます。しかし後に述べる経腹手術と比べて再発率が高いことが報告されています。
  2. 経腹手術ではメッシュ(人工のシート)の使用の有無や腸管切除の有無などで術式は様々ですが、経会陰手術に比べて再発率が低いと報告されています。一方で手術には全身麻酔が必要となります。以前は開腹手術が多く行われていましたが、現在は腹腔鏡を用いた手術が一般的に行われており、低侵襲に手術を行うことが出来ます。

当院での実際

 当院では ②経腹手術のうちの1つである「腹腔鏡下直腸前方固定術: Laparoscopic Ventral Rectopexy 」を主に行っています。この術式は直腸の前面にメッシュを貼付し、それを吊り上げて仙骨に固定して直腸を脱出しない様に固定する術式となります。他の術式と比べて神経の損傷が少なくてすむため、術後の排便障害の頻度が減少すると報告されています。

実際の流れ

 外来で検査を行い、直腸の脱出程度の評価や他臓器の脱出の有無を調べます。また直腸脱の影に、大腸がんなどの悪性の疾患が隠れていないかも評価を行います。手術時間は3時間ほどで出血量は少量のことがほとんどです。手術翌日より経口摂取を再開し、問題のないことが確認出来た時点で退院となります。入院期間は概ね1週間程度ですが、患者さんの都合に合わせて適宜調整させていただいています。手術直後より脱出が改善するため、治療効果をすぐに実感していただくことが出来、患者さまも大変喜んでおられます。

さいごに

 直腸脱は良性疾患であり、すぐさま命に影響を及ぼす疾患ではありません。しかし慢性的な直腸の脱出は不快感や疼痛を伴うため、QOLの著しい低下を引き起こします。活動しているとすぐに直腸が脱出してしまうため、外出することも少なくなり、ほとんど寝たきりになってしまう患者さんもおられます。しかし手術を受けて直腸脱が改善することで日々の生活を取り戻し、活き活きとした表情で外来を受診される患者さんも少なくありません。直腸脱で苦しんでおられる患者さんはお気軽にご相談ください。

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