消化器外科 / 鼠径ヘルニアについて 

鼠径部ヘルニアの分類

 鼠径ヘルニアとは腹腔内容物(腸管や脂肪など)が腹壁に生じた欠損部を通じて皮下に飛び出してくる状態のことを指します。一般的には「脱腸」と言われるものです。ヘルニアはその腹壁の欠損部の位置によって分類されます。鼠径部に膨隆を認めるものを鼠径部ヘルニアと呼び次の3つの疾患に分類されます。

外鼠径ヘルニア・内鼠径ヘルニア・大腿ヘルニア
  • 外鼠径ヘルニアは男性に多く、全体でも頻度が高いとされます。若年者の鼠径ヘルニアは、ほとんどが外鼠径ヘルニアです。鼠径ヘルニアは、鼠径管と呼ばれる解剖学的に腹壁が弱い箇所に発生するヘルニアです。鼠径管は本来、精子を運ぶ管や睾丸を栄養する血管や神経などが通る管です。先天的に弱い箇所に、便秘や肉体労働などによる慢性的な負荷や加齢に伴う脆弱化が加わって、鼠径ヘルニアが発症すると考えられています。
  • 一方で大腿ヘルニアは大腿輪と呼ばれる、骨盤にある足へ向かう血管が通る穴から出てくるヘルニアです。大腿輪は解剖学的に女性の方が広いため、大腿ヘルニアは女性の頻度が高いとされてます。また大腿ヘルニアは嵌頓(腸が嵌まり込んで抜けなくなること)が起きやすく、緊急手術が必要な場合も多いとされます。

症状について

 多くの場合は鼠径部の膨隆や違和感といった症状のみですが、時には痛みを伴う場合もあります。鼠径管は睾丸周囲の神経が通っているため、同部位の痛みを感じられる方もいます。ヘルニアにおいて注意しなければならないのが嵌頓と呼ばれる状態です。嵌頓とはヘルニアから飛び出している腸管が嵌まり込んで戻らなくなってしまう状態のことで、この状態が持続すると脱出している腸管が血流障害に陥って壊死、穿孔などを来す危険性があります。ヘルニアが嵌頓した場合には急激な痛み(鼠径部痛や腹痛)や鼠径部の膨隆が硬くなる、嘔気や嘔吐などが出現します。嵌頓を来した場合には原則的に緊急手術が必要となります。

治療について

 ヘルニアは前述の様に物理的に腹壁に穴が生じた事による疾患です。そのため保存加療でこの穴がふさがることはなく、治療のためには外科的な手術が必要となります。
 手術では欠損している腹壁の修復を行います。以前は組織縫合法と呼ばれる、欠損部の回りの組織を縫い合わせて欠損を塞ぐ方法が行われていました。しかしこの方法は再発率が高く、また術後の疼痛も多いとされています。そのため現在はメッシュと呼ばれる人工補強材(ポリプロピレン製のシート)を用いた修復が多く行われています。メッシュを留置する方法として次の2つの方法があります。

①鼠径部切開法

 古くから行われてきており、文字通り鼠径部の皮膚を切開して前方から腹壁の欠損部にアプローチする方法です。腰椎麻酔もしくは局所麻酔下に行います。鼠径部切開法では鼠径部に4cm程の切開が必要となります。後述の腹腔鏡手術と異なり、全身麻酔を必要としないメリットがあり、全身麻酔をかけることが困難な患者さんでも、安全に手術を行うことが出来ます。メッシュを留置する層の違いによって手術の方法が若干異なっており、その方の病態にメッシュを使い分けて手術方法を決定します。

②腹腔鏡下手術(TAPP)

 腹腔鏡手術は1990年に海外で初めて報告され、その後日本でも普及し、2021年時点では全体の約半数が腹腔鏡下に行われていると報告されています。全身麻酔下にお腹の中に炭酸ガスを注入し膨らませます。3つの小さな孔を開けて鏡視下にて手術を行います。ヘルニアの部位を直接見て確認できること、同じ傷で両側同時に手術できること、一つの傷が小さいため術後の痛みが少ないことがメリットとして挙げられます。逆に全身麻酔が必要であること、手術時間がやや長くなることがデメリットとなります。また手術既往などによっては腹腔鏡手術が困難な場合もあります。

当院での治療

 当院ではヘルニアの状態や併存症の有無等、患者さんの希望などから総合的に判断して術式を選択しています。通常の待機手術であれば手術前日に入院して頂き、術後の経過が問題なければ、術後2日目頃に退院して頂いています。患者さんの希望によっては、1泊2日の短期入院にも対応しています。
 当院の手術件数は年間約140件ほどで、これは神戸市内でも有数の症例数となります。2023年11月末の時点で130件を越えており、年間で200件に迫る勢いとなっています。2016年から腹腔鏡手術を導入し、現在では半数以上の方が腹腔鏡手術を受けています。

さいごに

 鼠径部ヘルニアは外科疾患の中でも最も一般的な疾患です。初めて受ける手術が鼠径部ヘルニアと言う方も多くおられます。手術が必要と言われ戸惑われる方も多いかと思いますが、当院は治療経験も豊富であり、病状についての詳細な説明を行った上で患者さまそれぞれの状態に応じた最適な治療法を提案させていただきますので、安心して治療を受けていただけます。鼠径部の違和感や膨隆など、ヘルニアを疑うような症状がある方は、是非お気軽にご相談ください。

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