脳神経内科 / 神経難病・神経変性疾患
神経難病・神経変性疾患には、神経細胞の働きが徐々に低下するさまざまな病気があります。「難病」は何も治療できないという意味ではありません。進行を抑える治療、症状を軽減する治療、リハビリテーション、呼吸・栄養・コミュニケーション支援を組み合わせ、自分らしい生活を続けることを目指します。
診断では治療可能な病気を見逃さないことが重要です
筋力低下、歩行障害、ふるえ、運動失調、もの忘れなどは、頚椎・腰椎の病気、末梢神経障害、神経免疫疾患、ビタミン欠乏、甲状腺疾患、薬剤の影響などでも起こります。専門医が経過を詳しく伺い、神経診察、MRI、筋電図、血液・髄液検査などを組み合わせます。
病名を早く特定することだけでなく、治療できる原因を除外し、現在困っている症状と今後必要になる支援を整理することを大切にしています。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)
ALSとは
ALSは、筋肉を動かす運動ニューロンが障害され、手足、発声・嚥下、呼吸に必要な筋肉が徐々に弱くなる病気です。感覚は比較的保たれますが、病型によっては認知・行動の変化を伴うこともあります。
ALSに似た症状は、頚椎症、多巣性運動ニューロパチー、重症筋無力症、筋疾患などでも起こります。筋力、反射、筋萎縮を診察し、神経伝導検査・針筋電図、MRI、血液検査、呼吸機能検査を組み合わせ、治療可能な病気を除外します。
病気の進行を抑える治療
リルゾール、エダラボン、高用量メコバラミンなど、病状や発症からの期間、呼吸機能などに応じて検討する治療があります。薬だけでなく、呼吸・栄養管理を適切な時期に始めることも、生活の質と経過に大きく関わります。
SOD1遺伝子変異を有するALSでは、SOD1の産生を抑える核酸医薬トフェルセンが治療選択肢となりました。遺伝学的検査、遺伝カウンセリング、治療が必要な場合は、対応可能な専門医療機関と連携します。
呼吸・栄養・コミュニケーションを支えます
定期的に呼吸機能、咳の力、嚥下、体重と栄養状態を評価します。必要に応じて非侵襲的換気、排痰補助、食形態の調整、胃瘻などを検討します。意思を伝えにくくなる前から、文字盤、スイッチ、視線入力装置などのコミュニケーション手段を準備します。
医師、看護師、リハビリテーションスタッフ、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、地域の訪問診療・訪問看護と連携します。治療や療養場所について、ご本人の価値観を確認しながら一緒に考える共同意思決定とACPを大切にします。
パーキンソン病・パーキンソン症候群
パーキンソン病では、薬物療法、リハビリテーション、持続皮下注射などのデバイス治療、薬剤調整を目的とした入院を組み合わせます。多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核症候群など、パーキンソン病に似た症状を示す病気との鑑別も重要です。詳しくは「パーキンソン病・パーキンソン症候群」ページをご覧ください。
脊髄小脳変性症・多系統萎縮症
脊髄小脳変性症
脊髄小脳変性症は、歩くとふらつく、手がうまく使えない、ろれつが回りにくい、目が揺れるなどの運動失調を主症状とする病気の総称です。遺伝性と非遺伝性があり、病型によって痙性、末梢神経障害、認知機能の変化などを伴います。
治療可能な自己免疫性、栄養性、薬剤性の運動失調を除外し、必要に応じて専門施設と遺伝学的検査を検討します。転倒予防、歩行補助具、発声・嚥下訓練などのリハビリテーションを行います。
多系統萎縮症(MSA)
多系統萎縮症では、パーキンソニズムや小脳性運動失調に、立ちくらみ、排尿障害、発汗異常などの自律神経症状を伴います。睡眠中の呼吸障害や声帯の問題に注意し、薬物療法、リハビリテーション、血圧・排尿・呼吸への対症療法を組み合わせます。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症では、認知機能の良い時と悪い時の変動、具体的な幻視、寝ている間に夢に合わせて動くREM睡眠行動異常症、パーキンソニズム、立ちくらみや便秘などの自律神経症状がみられます。
認知機能、運動症状、睡眠、幻視・妄想を総合的に評価し、薬の効果と副作用のバランスを調整します。抗精神病薬に強く反応して動きや意識が悪化することがあるため注意が必要です。「認知症・もの忘れ」と「パーキンソン病・パーキンソン症候群」の両ページから詳しい診療内容をご案内します。
多発性硬化症
多発性硬化症は、免疫が脳・脊髄・視神経を攻撃して起こり、再発を防ぐ疾患修飾薬が進歩しています。詳しくは「神経免疫疾患」ページをご覧ください。
アルツハイマー病
アルツハイマー病では、原因診断、生活環境の調整、症状に応じた薬物治療に加え、適応のある方には抗アミロイドβ抗体薬を検討します。詳しくは「認知症・もの忘れ」ページをご覧ください。
その他の神経難病・神経変性疾患
- 進行性核上性麻痺(PSP):転びやすさ、眼球運動障害、姿勢の不安定、嚥下障害などを起こします。
- 大脳皮質基底核症候群・大脳皮質基底核変性症(CBS・CBD):片側優位の動かしにくさ、失行、認知機能の変化などを起こします。
- 遺伝性痙性対麻痺:両脚のつっぱりと歩行障害を主症状とする疾患群です。
- 球脊髄性筋萎縮症(SBMA):成人男性に発症し、手足や嚥下に関わる筋力が徐々に低下します。
- ハンチントン病:不随意運動、精神症状、認知機能の変化を起こす遺伝性疾患です。
- 前頭側頭型認知症:行動・性格や言語の変化が目立つ認知症です。
- プリオン病:認知機能や運動機能が比較的急速に悪化し、専門的な検査が必要です。
病名や病型によって、当院で継続診療する場合と、大学病院・神経難病専門施設と共同で診療する場合があります。必要な検査や治療を途切れさせないよう、役割を分担します。
医療・介護・生活を一つにつなぐ
神経難病では、診断や薬物治療だけでなく、転倒予防、嚥下・栄養、呼吸、コミュニケーション、住環境、介護者支援が重要です。院内のリハビリテーション部門や地域の医療・介護職と情報を共有し、通院が難しくなった場合は訪問診療、訪問看護、訪問リハビリテーションにつなぎます。
病気や重症度に応じて、指定難病の医療費助成、身体障害者手帳、障害年金、介護保険、難病相談支援センターなどを利用できる場合があります。医療ソーシャルワーカーが申請や相談先を一緒に整理します。
病気があっても、生活の目標を失わないために
神経難病の診療では、検査値や症状だけでなく、ご本人が続けたい仕事、役割、楽しみ、家族との時間を確認します。病気の進行に先回りして支援を準備し、その時々で納得できる選択ができるよう、多職種と地域で支えます。
受診を希望される方へ
当科外来は完全予約制です。現在当院に通院していない方は、まずかかりつけ医にご相談いただき、紹介状をご準備のうえ、医療機関から地域医療連携室を通じて予約をお取りください。
当院の他科に通院中の方は、現在の担当医にご相談ください。必要に応じて院内で脳神経内科の受診を調整します。