脳神経内科 / 認知症・もの忘れ
脳の病気を専門とする脳神経内科医が、病歴聴取と神経診察から、MRI・核医学検査・専門的な血液検査、認知症新薬の適応評価まで一貫して行います。診断だけで終わらず、病気に応じた治療、生活環境の調整、ご家族への助言、地域の医療・介護サービスとの連携まで支援します。
緊急時のご案内
急な変化は早めの受診を
数時間から数日で急に混乱した、意識が悪い、片側の麻痺や言葉の異常を伴う場合は、認知症ではなく脳卒中や身体疾患の可能性があります。予約外来を待たず、救急医療機関へご相談ください。
年齢によるもの忘れと認知症の違い
年齢とともに人の名前がすぐに出てこないことは珍しくありません。一方、認知症では、経験した出来事そのものを忘れる、同じことを何度も尋ねる、薬や金銭の管理が難しくなるなど、生活への影響が少しずつ現れます。
認知機能の低下は、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、血管性認知症などのほか、薬の影響、睡眠障害、うつ状態、甲状腺疾患などでも起こります。治療できる原因を見逃さないことが大切です。
このような変化はご相談ください
- 同じ質問や確認を繰り返すようになった
- 薬の管理、支払い、料理、運転などで失敗が増えた
- 日時や場所が分からなくなることがある
- 性格や意欲が変わった、幻が見えると言う
- 歩き方、動作、睡眠にも変化がある
- 短期間で認知機能が急速に低下している
診断と検査
脳神経内科医が、ご本人とご家族から、いつ頃からどのような変化があったか、日常生活のどこに支障があるかを詳しく伺います。記憶だけでなく、注意、言語、視空間認知、遂行機能、歩行、眼球運動、パーキンソニズムなどを認知機能検査と神経診察で評価します。
血液検査では、甲状腺機能、ビタミンB1・B12・葉酸、電解質、肝腎機能、感染症・自己免疫疾患に関する項目などを病状に応じて調べます。頭部MRIで脳梗塞、腫瘍、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫などを確認し、必要に応じて脳血流SPECTなどの核医学検査、脳波、髄液検査、自己抗体検査を組み合わせます。総合病院の利点を生かし、院内各科や脳神経外科と連携して診断から治療につなげます。
普段の生活を知るご家族の情報が診断に役立つため、可能であれば一緒に受診してください。お薬手帳、これまでの画像や検査結果、生活上の変化をまとめたメモがあると診察が進めやすくなります。
治療できる認知機能低下を見逃さないために
認知機能低下の中には、原因を治療することで症状の改善が期待できる病気があります。経過が典型的でない場合や、短期間で悪化する場合は、次のような病気を積極的に調べます。
- 特発性正常圧水頭症:歩幅が小さく足が床に貼りつくような歩行、もの忘れ、尿意切迫・尿失禁がみられます。MRIと髄液排除試験などで評価し、適応があれば脳神経外科でシャント手術を検討します。
- 慢性硬膜下血腫・脳腫瘍:転倒や頭部打撲後の頭痛、片側の手足の動かしにくさ、歩行悪化、比較的急な認知機能低下が手がかりです。CT・MRIで診断し、脳神経外科につなぎます。
- てんかん:短時間反応がなくなる、同じ動作を繰り返す、夜間のけいれん、記憶や意識の状態が変動する場合があります。脳波などで評価し、脳神経内科で抗てんかん発作薬による治療を行います。
- 自己免疫性脳炎・感染性脳炎:数週から数か月で進むもの忘れ、性格変化、けいれん、発熱、不随意運動などを起こします。MRI、脳波、髄液、自己抗体検査などを行い、免疫治療や感染症治療を検討します。
- 甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏症、薬剤の影響など:採血や処方内容の確認で原因を探し、補充療法や原因薬の調整、専門科での治療につなげます。
神戸市の認知機能精密検査(第2段階)に対応
神戸市の認知症診断助成制度では、認知症の疑いの有無を調べる「第1段階」と、専門医療機関で認知症かどうか、原因となる病名は何かを詳しく診断する「第2段階」があります。神戸市では、第1段階は約500か所、第2段階は約60か所に限られています。
当院は、第2段階の実施医療機関であるだけでなく、認知症新薬にも対応する医療機関です。認知症新薬を安全に使用するには、早期アルツハイマー病の診断、MRI、アミロイドの確認、点滴、定期的なMRI、安全性管理を一体として行える体制が必要です。当科では2024年度から抗アミロイドβ抗体薬を導入し、2026年7月までに12人の患者さんに治療を行っています。制度の対象や申込方法は、神戸市の「認知症神戸モデル」をご確認ください。
治療と生活支援
病気と症状に応じた治療
認知症の種類や進行度、生活への影響に応じて、認知機能の低下を緩やかにする薬や、睡眠・気分・幻視などの症状に対する治療を検討します。血圧、糖尿病、睡眠、服用中の薬など、認知機能に影響する要因も一緒に見直します。
認知症抗体製剤(抗アミロイドβ抗体薬)
レカネマブ、ドナネマブなどの抗アミロイドβ抗体薬は、脳にたまったアミロイドβを標的とする、アルツハイマー病の疾患修飾療法です。対象は、アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)または軽度認知症で、失われた記憶を元に戻す薬ではなく、今後の認知機能と生活機能の低下を緩やかにすることを目指します。
第3相臨床試験では、レカネマブは18か月間で認知・生活機能の低下をプラセボより27%遅らせました。ドナネマブは、脳内のタウ蓄積が低~中等度の集団で76週間の低下を35.1%遅らせました。いずれも集団全体でみた相対的な差であり、効果には個人差があります。治療しても病気は進行し得るため、期待できる効果を具体的に話し合って選択します。
治療前には、認知機能と日常生活機能、MRI所見、全身状態を評価し、髄液検査またはアミロイドPETでアミロイドβの蓄積を確認します。レカネマブは原則2週ごと、ドナネマブは原則4週ごとの点滴で、治療中は決められた時期にMRIを行います。通院回数、費用、併用薬、介護者の協力も含め、継続可能かを一緒に検討します。
重要な副作用は、脳のむくみや微小出血などがMRIに映るARIA(アリア:アミロイド関連画像異常)です。臨床試験でARIA-E(脳のむくみ)はレカネマブで12.6%、ドナネマブで24.0%にみられ、ドナネマブでは6.1%に症状を伴いました。多くは無症状または軽症ですが、頭痛、意識の変化、視覚症状、けいれん、麻痺などを起こし、まれに重篤になることがあります。点滴時反応もあり、MRI所見や症状に応じて休薬・中止します。メリットと負担・リスクを十分に説明し、安全性を優先して治療します。
環境調整とご家族への支援
治療は薬だけではありません。生活リズムを整える、予定や物の置き場所を分かりやすくする、服薬や金銭管理を支える、転倒や運転の危険を減らすなど、ご本人の力を生かせる環境を一緒に考えます。
必要に応じて、院内の看護師、医療ソーシャルワーカー、リハビリテーション部門や、地域のかかりつけ医、ケアマネジャー、訪問看護、地域包括支援センターなどと連携します。
当院での対応範囲
外来では、認知症の原因診断、薬物治療、抗アミロイドβ抗体薬、身体合併症の評価、生活環境の調整に関する助言を行います。身体疾患の治療や検査入院が必要な場合は、院内各科と連携します。
一方、強い興奮・攻撃性、自傷他害のおそれ、重い幻覚・妄想などの行動・心理症状(BPSD)に対する精神科の専門的な入院治療を主目的とする場合は、当院での入院対応には制限があります。その場合は、精神科病床を持つ認知症専門医療機関などと連携して、適切な療養先を調整します。
認知症にやさしいまち神戸で、自分らしい生活を支える
認知症の診断はゴールではありません。認知症があっても、ご本人の希望やできることを大切にし、住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けられることが目標です。認知症にやさしいまちを目指す神戸で、早期診断と新しい治療、医療・介護・地域支援をつなぎ、ご本人とご家族がこれからの生活を選べるようお手伝いします。
受診を希望される方へ
当科外来は完全予約制です。現在当院に通院していない方は、まずかかりつけ医にご相談いただき、紹介状をご準備のうえ、医療機関から地域医療連携室を通じて予約をお取りください。
当院の他科に通院中の方は、現在の担当医にご相談ください。必要に応じて院内で脳神経内科の受診を調整します。
受診時にお持ちいただきたいもの
- 紹介状、お薬手帳
- これまでに受けた画像検査や検査結果
- いつ頃からどのような変化があったかをまとめたメモ
- 日常生活や運転、薬・金銭管理で困っていることの情報