脳神経内科 / 神経免疫疾患

神経免疫疾患は、本来体を守る免疫の働きが脳、脊髄、視神経、末梢神経、神経と筋肉のつなぎ目などを攻撃して起こる病気です。専門医による病歴聴取と神経診察に、MRI、髄液検査、自己抗体検査などを組み合わせ、急性期治療から再発予防まで継続して診療します。

緊急時のご案内

急速な悪化は救急受診を

急な視力低下、数日で進む手足の麻痺、歩けない、尿が出ない、飲み込みにくい、息苦しい、意識や性格の急な変化、けいれんを認める場合は、予約外来を待たず救急医療機関を受診してください。

診断に必要な検査

症状がいつ、どのように始まり、過去に似た症状がなかったかを詳しく伺います。視力・眼球運動、筋力、感覚、反射、歩行、認知機能などを診察し、障害されている神経の場所を考えます。

頭部・脊髄MRI、髄液検査、誘発電位、脳波、神経伝導検査などを病状に応じて組み合わせます。抗AQP4抗体、抗MOG抗体、抗NMDA受容体抗体、抗LGI1抗体などの自己抗体検査は、診断と治療選択に重要です。

一部の自己抗体検査は保険適用外です。検査の必要性、実施する検査機関、費用、結果が判明するまでの期間について、実施前に説明します。

多発性硬化症(MS)

症状と診断

多発性硬化症は、脳、脊髄、視神経の髄鞘に炎症が起こる病気です。視力低下、複視、しびれ、筋力低下、歩行障害、排尿障害、強い疲労などが、時期や場所を変えて現れます。再発寛解型、二次性進行型、一次性進行型などの病型があります。

MRIで病変の場所と新旧を評価し、髄液中のオリゴクローナルバンドなどを確認します。視神経脊髄炎スペクトラム障害、抗MOG抗体関連疾患、感染症、血管炎、サルコイドーシスなど、治療法が異なる病気を慎重に除外します。

急性期治療

新たな神経症状が出現した再発時には、感染症などを除外したうえでステロイドパルス療法を行います。改善が不十分で血漿交換療法などが必要な場合は、対応可能な専門医療機関と連携します。症状に応じて早期からリハビリテーションを行います。

再発を防ぐ疾患修飾薬(DMD)

DMDは、現在の症状をすぐに消す薬ではなく、将来の再発や新しいMRI病変を減らし、障害の進行を抑えることを目指す治療です。病型、疾患活動性、感染症リスク、妊娠希望、通院頻度、自己注射の可否を考えて選択します。

  • インターフェロンβ・グラチラマー酢酸塩:使用経験が長い注射薬ですが、注射部位反応やインフルエンザ様症状があります。
  • フマル酸ジメチル:内服で治療できますが、ほてり、消化器症状、リンパ球減少、まれな進行性多巣性白質脳症(PML)に注意します。
  • フィンゴリモド・シポニモド:内服薬で、感染症、徐脈、黄斑浮腫、妊娠への影響などを確認します。
  • ナタリズマブ:再発を強く抑える点滴薬ですが、抗JCウイルス抗体などを確認し、PMLのリスクを管理します。
  • オファツムマブ(ケシンプタ®):B細胞表面のCD20を標的とする抗体薬で、維持期は原則4週ごとの皮下注射です。感染症、免疫グロブリン低下、ワクチンの時期などを管理します。

当院では、オファツムマブ(ケシンプタ®)を含むDMDの導入実績があります。治療開始後も血液検査とMRIを定期的に行い、効果、安全性、生活上の負担を確認します。

視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)

NMOSDは、視神経炎や長い範囲の脊髄炎などを起こす病気で、多くの患者さんで抗AQP4抗体が検出されます。しゃっくり・吐き気が続く最後野症候群で発症することもあります。多発性硬化症とは病態と治療が異なり、再発のたびに視力や歩行機能の障害が残ることがあるため、再発予防が重要です。

急性期治療と再発予防

急性期にはステロイドパルス療法を行います。改善が不十分で血漿交換療法・免疫吸着療法が必要な場合は、神戸市立医療センター中央市民病院や神戸大学医学部附属病院などへ転院・紹介します。

再発予防には、エクリズマブ、ラブリズマブ、サトラリズマブ、イネビリズマブ、リツキシマブなどが選択肢になります。作用する免疫経路、点滴・皮下注射の違い、通院頻度、感染症リスクを比較して選びます。当院では補体C5阻害薬ラブリズマブの使用実績があります。補体阻害薬では髄膜炎菌感染症を防ぐためのワクチン接種と、発熱などが起きた際の迅速な対応が必要です。

抗MOG抗体関連疾患(MOGAD)

MOGADは、視神経炎、脊髄炎、脳炎などを起こす病気です。MSや抗AQP4抗体陽性NMOSDとは別の疾患として考えられ、急性期治療と再発予防の方針も異なります。抗MOG抗体の結果だけでなく、症状、MRI、髄液所見を組み合わせて診断します。

自己免疫性脳炎・髄膜脳炎

自己免疫性脳炎では、数日から数週間で記憶、意識、性格や行動が変化し、けいれん、不随意運動、自律神経症状などが現れます。感染性脳炎、てんかん重積状態、薬物・代謝性脳症などを除外しながら、MRI、脳波、髄液検査、自己抗体検査を進めます。

抗NMDA受容体脳炎

抗NMDA受容体脳炎は、精神症状、記憶障害、けいれん、意識障害、口や手足の不随意運動、自律神経の不安定などを起こします。若い女性に多い一方、性別や年齢を問わず発症します。卵巣奇形腫などの腫瘍を伴うことがあり、免疫治療と腫瘍治療を組み合わせます。

抗LGI1抗体脳炎

抗LGI1抗体脳炎は、記憶障害、混乱、けいれん、低ナトリウム血症などを起こします。顔と腕が一瞬こわばる特徴的な発作(faciobrachial dystonic seizure)が診断の手がかりになることがあります。早期に免疫治療を開始し、てんかん発作にも対応します。

傍腫瘍性神経症候群

がんに対する免疫反応が神経を攻撃し、脳炎、小脳失調、末梢神経障害などを起こすことがあります。抗Hu抗体、抗Yo抗体、抗Ma2抗体などを病状に応じて検討し、肺がん、乳がん、婦人科腫瘍などを検索します。地域がん診療連携拠点病院として、がん診療部門、放射線診断科、病理診断科などと連携します。

重症筋無力症(MG)

MGは、神経から筋肉へ指令を伝える部分が自己抗体によって障害される病気です。眼瞼下垂・複視だけの眼筋型と、手足、嚥下、呼吸にも症状が及ぶ全身型に分け、抗AChR抗体、抗MuSK抗体、胸腺腫の有無などを確認します。詳しい検査や院内各科との連携は「末梢神経・筋疾患」ページでもご案内します。

治療には、抗コリンエステラーゼ薬、少量ステロイド、カルシニューリン阻害薬、IVIg、血漿浄化療法、胸腺摘除などがあります。呼吸や嚥下が急速に悪化するMGクリーゼでは緊急の入院・集中治療が必要です。

最新の分子標的治療

全身型MGでは、補体阻害薬のエクリズマブ、ラブリズマブ、ジルコプラン、FcRn阻害薬のエフガルチギモド、ロザノリキシズマブなど、免疫反応の特定部分を標的とする治療が使用できます。抗体の種類、病状、投与経路、治療間隔、感染症リスク、費用を考慮し、従来治療と組み合わせて選択します。

がん治療に伴う神経免疫合併症

免疫チェックポイント阻害薬による神経学的irAE

肺がん、乳がんなどに使用する免疫チェックポイント阻害薬では、まれにMG、筋炎・心筋炎、末梢神経障害、脳炎、髄膜炎、脱髄疾患などの免疫関連有害事象(irAE)が起こります。筋力低下、眼瞼下垂、飲み込みにくさ、息苦しさ、意識の変化などを早期に捉え、がん診療科、循環器内科、呼吸器内科などと連携して診断・治療します。

CRS・ICANSへの院内対応

CAR-T細胞療法や二重特異性抗体などでは、サイトカイン放出症候群(CRS)や、免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)が起こることがあります。irAEとは異なる病態であり、発熱、血圧低下、低酸素、意識・言語・書字の変化、けいれんなどを院内対策フローに沿って評価し、治療部門と連携します。

当院での治療と高度医療機関との連携

当院では、MRI・髄液・自己抗体検査による診断、ステロイドパルス療法、IVIg、DMD・抗体医薬の導入と継続管理、がん治療に伴う神経免疫合併症への対応を行います。

神経免疫疾患で行う血漿交換療法・免疫吸着療法などの血液浄化療法や、より高度な集中治療が必要な場合は、神戸市立医療センター中央市民病院、神戸大学医学部附属病院などと連携し、病状に応じて転院を調整します。

受診を希望される方へ

当科外来は完全予約制です。現在当院に通院していない方は、まずかかりつけ医にご相談いただき、紹介状をご準備のうえ、医療機関から地域医療連携室を通じて予約をお取りください。

当院の他科に通院中の方は、現在の担当医にご相談ください。必要に応じて院内で脳神経内科の受診を調整します。