消化器内科 / 代表的な疾患 / 胃癌

胃癌とは?

胃癌は、胃の壁の最も内側にある粘膜内の細胞が、何らかの原因で癌細胞になって無秩序に増殖を繰り返す癌です。検診などで見つけられる大きさになるまでには、何年もかかるといわれています。

癌が大きくなり広がることを浸潤といいます。粘膜内を横に広がっているうちはよいのですが、胃壁の外に向かって粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜へと徐々に深く浸潤しはじめると、それに伴って転移しやすくなり、予後が悪くなってきます。
この癌の深部方向への進展は深達度と呼ばれています。

胃壁のシェーマ

胃癌の人は多いの?

以前より胃癌は日本人に多い癌の1つで、早期発見・早期治療の指針のもと、最近では検診の発達などにより、その約50%が早期癌として発見されるようになりました。
このため、死亡率は近年減少傾向にあり、2009年の厚生労働省の癌死亡率では男性では肺癌を下回っていますが、それでも第2位、女性で第3位を占めています。

胃癌の治療とは?

早期胃癌が多くなった今日においても、胃癌は基本的には外科手術療法がもっとも有効な治療法ではあります。
早期胃癌に対する外科手術療法による5年生存率は92%と高率です。

手術療法で目に見える癌を完全に取りきれた手術を根治手術と呼び、これができれば当然予後(今後の再発などの見通し)が良くなります。残念ながら、根治手術を得られた方の中にも再発する場合もあります。

胃を切除するしかないの?

とはいえ、リンパ節・多臓器への転移のない段階の癌である「早期癌」なら、内視鏡で胃内腔の表層を切除するだけで根治効果が得られることがわかってきており、手術と比べ胃を温存することができ、体への負担がより小さい治療として発展されてきました。

治療法はどうやって決まるの?

通常、胃癌は内視鏡検査にて診断されますが、一見して大きな進行癌も、ただれのような小さな早期癌も、生検(病変のごく一部を採取)がなされ、顕微鏡検査が行われ病理学的に最終診断がなされます。
胃癌と診断されると、まず癌の進行度(どれだけ広がっているか)を調べ、その広がりに対して治療法の選択が絞られます。

治療法は人によって異なるの?

がんはその細胞の性質や広がりによって,それぞれに多種多様で治療の方法は異なります。
また、治療を受けられる患者さんの体の状態やときには人生観などによっても治療の方針は変わってきます。したがって一見病気が同じようであっても、必ずしも治療法が同じであるとは限りません。病気と患者さんの状態を、合わせて判断し、その人にあった最適の治療を行っていきたいと考えています。

どんな治療法があるの?

治療法として、日本胃癌学会が発刊している2004年度版『胃癌治療ガイドライン』で次の表のように記載されています。
胃癌の進行度の一つの表現としてStage分類(Ⅰ~Ⅳ)があります。
ここでのTは癌の深達度、Nは領域リンパ節への転移度、M.H.P.CYは遠隔転移を表しています。

ステージ分類

今回は内視鏡的治療の適応である、T1(M)/N0のstageⅠAの病変について詳しく説明いたします。
この段階の癌、NO=”リンパ節の転移がないもの”であれば内視鏡的治療でほぼ根治効果が得られるということです。

しかし、問題点があります。
リンパ節転移があるがどうかは、超音波検査やCT検査で調べますが、細胞レベルでの転移の有無は実際にリンパ節を切除し顕微鏡検査をしてみないとわからないのです。

しかし、いままでの膨大な手術例をもとに、癌の大きさ・形(癌巣内潰瘍(ul)の有無も含む)・深達度・組織型の組み合わせより経験的に転移の可能性が解析されました。
その結果T1(M)=”癌の浸潤が粘膜(M)までにとどまっているもの”で、2cm以下で、組織型が分化型。肉眼型は問わないが、陥凹型では潰瘍がないものに限るものはほとんどリンパ節転移がなく、内視鏡的適応の具体的条件と決められました。

しかし、また問題点があります。粘膜(M)までにとどまっているかどうかは、これもまた切除して顕微鏡検査をしないと細胞レベルでの癌の浸潤がどれほどかはわかりません。
ズーム機能を搭載した拡大内視鏡検査や先端に超音波装置をもつ超音波内視鏡検査を駆使し、少しでも切除前に深達度を判明しようとしますが、必ずしも正確でありません。

すなわち、上記の因子は厳密には切除標本での顕微鏡検査による病理学的に決定されるため、内視鏡治療の際できるだけ一括に切除し、正確に術後組織評価をすることが重要となります。
一括できない=分割切除となると、それだけ病理診断が不正確となり、遺残再発が生じる可能性が出てきます。

このように内視鏡的切除は、正確な術後診断のできる一括切除手技と、転移がないであろう癌の厳密な選択により、適応となるわけです。

一括切除のシェーマ

ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)って?

内視鏡的粘膜切除術をEMRと呼びますが、最近、切除技術が大きく進歩してきており、新しく保険収載されたESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)は、この切除術の手技の1つです。
内視鏡を使い、まず病変の周囲の粘膜を切開し、次に粘膜下層を直接観察しながら、少しずつ剥離していきます。従来のEMRと比べ利点としては、サイズの大きい腫瘍や潰瘍瘢痕を伴う例などでも一括切除できる点です。
出血・穿孔といった合併症の頻度がやや多いと報告されていますが、現在主流となっています。

ESDの内視鏡写真

このように新しい切除技術により、より正確な治療後評価を得ながら、より大きく胃粘膜を切除することが可能となってきたことに加え、理論的根拠として治療ガイドラインからも一括切除を前提に、標準医療・臨床研究としてのEMRの位置付けが明確化してきております。
これに加え、前述以外の転移の極めて少ない癌(例えば、分化型で癌巣内潰瘍がなければ2cm以上のものや、小さければ癌巣内潰瘍のあるものでも)に対するEMR(ESD)も臨床研究として認められています。

当院では、切除病変を病理の先生と検討のうえ、施行された内視鏡的治療の効果判定を正確に行い、その結果追加治療が必要な場合は外科の先生方と相談し、患者さんにとっての最善の治療を選択していきたいと考えております。