形成外科 / 乳房再建

 当院は乳腺センターを併設しており、形成外科医も乳腺科医師と協力して乳癌患者さんの治療にあたっております。形成外科医の役割は乳癌手術後の乳房変形および乳房欠損に対してさまざまな手法を用いて乳房を再建する(作り直す)ことです。

 

① 再建するタイミングについて

 乳房再建手術には再建手術を行う時期により、一次再建(同時再建)と二次再建があります。

乳房一次再建

 一次再建とは乳癌切除手術と同時に乳房再建手術を行うことであり、患者さんにとっては手術回数が少なくてすむ、乳房損失体験をしないですむなどの利点があります。一次再建が行えるかどうかは乳がんの状態を診て乳腺科医師の判断によって決定されます。特に皮下乳腺全摘術が適応となる患者さんの場合、乳房の正面に傷跡ができないため一次再建を行うとほぼ元どおりといってよいほどの美しい乳房を再建することが可能です。このような治療は乳腺科医と形成外科医の密接な連携が必要であり、当院の乳腺センターでは定期的に合同でカンファレンスを行うことで現在までに根治と安全を第一に考えた数多くの乳がん治療と一次再建を行ってきました。

乳房二次再建

 二次再建とは過去に乳房の切除手術をうけられて、乳房の欠損もしくは変形をきたした状態に対して乳房の再建手術を行うことをいいます。当院では他院で乳癌手術を受けられた患者さんであっても、主治医の乳腺科医師の紹介状をお持ちいただければ再建手術をうけていただくことができます。
 二次再建の手術は乳房切除術を終えてから、傷が癒えるまで少なくとも約6ヶ月間は待機していただく必要はありますが、その先は主治医の乳腺科医師の許可さえあればいつでもご本人が希望されたときに行うことができます。たとえ乳房切除術から10年や20年経過していても問題ありません。
 乳がん手術の時には術後のからだの見た目(ボディイメージ)のことまで考えるのは難しいと思います。乳がん治療が一段落ついて元気になると、ボディイメージの変化が気になり始めるということもありますので、そのような時には乳房二次再建という選択肢があることを知っておくだけでも安心できるかもしれませんのでご相談いただければと思います。

② 再建材料について

 乳房を再建する材料(手術法)には大きく分けて自家組織と人工物の2種類の方法があります。長所短所は相反するものであり、自家組織再建と人工物再建はまったく別のタイプの再建手術と言えます。(表1)

(表1) 乳房再建材料の種類と特徴 (青字・・・長所赤字・・・短所

 自家組織(腹部・背部)シリコンインプラント
手術時間4~10時間(術式による)1~2時間
入院期間10日~2週間2~5日間
傷跡胸部+組織採取部胸部のみ
体への負担やや大きい小さい
乳房の仕上がり自然な形態
生涯安全で安定
やや不自然
長期経過が不確実
当院における乳房再建の内訳

自家組織乳房再建

 自家組織とは患者さんご自身の脂肪や筋肉のことであり、一般的には下腹部の脂肪や背中の筋肉などを血液が巡った生きた状態を保って移植することで乳房の膨らみを作ります。
 ご自身の生きた細胞でできた組織で乳房を作成するため、暖かみのある柔らかい自然な形態の乳房が作成できることや、一旦完成してしまえば異物反応などの心配がなく生涯安全な乳房が手に入るという長所があります。一方で組織の採取部である下腹部や背部などに長い傷跡ができわずかに違和感が残ることがある、やや大きな手術となる、まれに移植した組織がうまく生着しないことがあるなどの欠点があります。
 患者さんの体型や乳房の大きさ、生活パターンなどから最適な手術法を患者さんと相談しながら決定しますが、当院では自家組織再建においては現在のところ下腹部の脂肪のみを使って再建する深下腹壁動脈穿通枝皮弁法(DIEP flapといいます)を用いての手術が最も多くなっています。(図2)DIEP flapによる手術では腹筋を痛めることが極めて少ないため、他の方法と比較して組織採取部(お腹)に優しい手術となります。またそれだけではなく、筋肉などと違い元々の乳房の素材に近い柔らかい脂肪のみで乳房を作成できることと、比較的自由に形態を作成して適切な部分に移植できるため、自然な仕上がりの乳房を作成しやすい特徴があります。約1~2mmの微小血管の剥離と顕微鏡下の血管吻合を伴うやや経験を必要とする手術ではありますが、現在のところ他の手術法と比較するとその応用力と使いやすさと安全性のバランスが最も優れている方法であり、DIEP flapを自家組織乳房再建の第一選択とすべきというのが当院の考え方となっています。
 なお腹部に以前の手術の傷跡があってもほとんどの方でDIEP flapによる再建は行うことができるのですが、それ以外の何らかの理由でDIEP flapを適応しにくい方の場合には、広背筋皮弁法や有茎腹直筋皮弁法、太ももの脂肪を用いた穿通枝皮弁法などを使っての再建を行っています。

人工物乳房再建

 人工物とはやわらかいシリコンでできた袋(シリコンインプラント)のことです。人工物による乳房再建手術も平成26年1月より健康保険適応となりました。
 人工物で再建することの最大の長所は身体の他の部分にキズをつけずにすみ、身体に与える負担が小さいことです。しかし、シリコンインプラントは既製品であるため(サイズは多数ありますが)乳房の形態を作る限界があり、触感・外見の自然さに欠けることがあります。そして人工物再建の最大の欠点は人体にとっての異物を用いることにあります。そのためインプラント周囲には異物に対する被膜というものが形成されこれが時間の経過とともに硬く縮んできて乳房の変形が起こりえること、工業製品であるインプラント自体の劣化が起こりえること、細菌感染してインプラントの摘出が必要となる可能性があること、などが問題となります。つまりインプラントで再建した乳房は一生安泰のものではなく、外見上の問題やインプラント自体に問題(破れるなど)が出てきた場合にはインプラントの入れ替えや被膜の切除術などの対応が必要となることを十分にご理解いただく必要があります。
 また最近になって、これまで一般的に使用されてきた表面がザラザラしたテキスチャードタイプと呼ばれるシリコンインプラントによって、極めてまれにブレストインプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)という悪性腫瘍の一種が発生する可能性が報告されました。2019年には本邦でもBIA-ALCLの発生が報告されたため、現在本邦ではこのテキスチャードタイプのインプラントが使用禁止となり、表面がつるつるしたスムースタイプのラウンド型のシリコンインプラントしか健康保険適応では使用出来なくなっております。このタイプのシリコンインプラントではBIA-ALCLが発生したという報告はこれまでにないためその点では安心して使用することは出来ますが、このインプラントは形状がお椀型なため以前まで使用できていたインプラントと比較すると乳房の形態が綺麗に作成しにくいケースがみられます。また表面がつるつるしていることで術後の変形(被膜拘縮といいます)が以前のものよりも起こりやすいとも言われています。
 以上のように人工物再建のデメリットはいろいろあるのですが、それでも身体の他の部位を傷つけず、比較的簡単に乳房の膨らみを再建できるメリットは非常に大きいため、前述のデメリットを十分にご理解いただける方にとっては有力な選択肢となっています。

③ 乳輪乳頭の再建について

 前述の方法で乳房の膨らみが再建されますが、乳輪乳頭はまた別で作成することとなります。乳房の膨らみが出来ればこれでもう充分ですという方もおられますが、乳輪乳頭を作成すると本当にぐっと乳房らしく仕上がってきますので、我々としては是非とも乳輪乳頭まで作成されることをおすすめしております。
 乳頭の高まりの部分とその周りの乳輪の部分を分けて考えるのですが、乳頭については対側の乳頭の一部を採取して移植する方法と皮膚を折りたたんで高まりを作成する方法があります。乳輪の部分はアートメイク(刺青)で色を付けるか陰部近傍の色素沈着した皮膚を移植して色を再現します。どの方法であっても基本的に外来での局所麻酔の短時間の手術で可能であり、乳房の膨らみを作成する手術と比較すると非常に小さな簡単な手術となります。(アートメイク(刺青)は自費治療となります。)
 乳房の膨らみが完成し形態が安定する3~6ヶ月以降に乳輪乳頭の再建を行っています。

④ その他の乳房変形の治療

 当院では乳房温存手術後の乳房変形に対する治療や、他院での乳房再建手術後の修正手術も行っております。これらは患者さんによって変形の度合いや放射線照射による影響の違いなどさまざまなパターンがあるため、すべて診察したうえでのオーダーメイド治療となります。

⑤ 最後にひとこと

 当院形成外科は乳房再建手術の経験症例数とバリエーションの豊富さを特徴としており、我々が最も力を注いでいる専門分野の一つです。
 どのような手術法で乳房再建するのがよいかは患者さま自身の考え方やライフスタイル、年齢、体型、乳房形態、傷跡の状態などによって個々のケースで異なります。近年はインターネットや書籍による情報や知人の経験談などいろいろな情報が氾濫していますが、他の医療と同じで乳房再建においてもそれがご自身にそっくりそのまま当てはまることはほとんどありません。逆に少し間違った情報もよく見受けられます。
 乳房再建を考えておられるようでしたら、まずは乳房再建を専門とする形成外科医を受診いただき、実際の手術症例写真などを見て正しい情報を知ったうえでご自身にとっての最適な手術法のアドバイスをうけることをおすすめいたします。間違った情報のせいで再建手術を諦めていた患者さまをしばしば見かけますし、実際に手術するかどうかは専門医の正しい説明を聞いたうえで(二次再建の場合は)急ぐわけではないのでどうするかゆっくりと考えていただき、手術したくなった時に予約するというように思ってもらえればよいでしょう。

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