循環器内科 / 末梢動脈疾患

 動脈硬化は心臓の冠動脈だけではなく、全身の動脈、例えば手足、腎臓、脳を栄養する動脈にも起こります。当科では特に、足の動脈硬化性疾患である下肢閉塞性動脈疾患(LEAD)の治療に積極的に取り組んでいます。下肢閉塞性動脈疾患の症状としては、歩くと足が痛くて歩けなくなり、しばらく休むと楽になって歩くことができるようになります。これを間欠性跛行といいます。さらに病状が進行すると、足の指先にできた傷が治らない、足の傷が広がり、足が壊死して黒くなるといった症状が認められます。この状態を包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)といい、足の切断手術が必要となることがあります。多くの患者さんは足が痛くても、「年齢のため」「糖尿病のため」「足腰が悪いため」と思い込み、医師に相談しないことが多く、発見が遅れてしまうことがあります。

 下肢閉塞性動脈疾患が疑われる患者さんには、まず外来で足関節上腕血圧比測定(ABI検査)および下肢動脈エコー検査を行います。ABI検査は上腕と足首の血圧を測定し、その比率を計算するスクリーニング検査であり、簡便に行うことができます。下肢閉塞性動脈疾患の診断が確定すれば、入院のうえカテーテルによる血管内治療(EVT)を行います。EVTは冠動脈のカテーテル治療と同様に、バルーンカテーテルを膨らませて、狭くなっている動脈の病変部位を押し広げます。必要に応じてステントによる治療を行います。また、最近では薬剤コーティングバルーン(DCB)による治療も行っています。

 動脈硬化は全身の動脈に起こります。冠動脈、下肢動脈のほか、脳の動脈にも発生します。脳動脈の動脈硬化により、頸動脈狭窄(脳梗塞の予備軍)や脳梗塞を引き起こします。実際、下肢閉塞性動脈疾患の精査中に冠動脈疾患や頸動脈狭窄症などの脳血管疾患が見つかることがあります。冠動脈疾患に対しては、PCIの適応を評価したうえでPCI治療を行います。また、頸動脈狭窄に対しては脳神経外科に相談し、適応があれば脳神経外科で頸動脈ステント治療を行います。

 冠動脈や下肢動脈に対するカテーテル治療後の再発予防(二次予防)も非常に重要です。このためには、血液をさらさらにする抗血栓薬が必要であり、動脈硬化のリスク因子である高血圧症、高コレステロール血症、糖尿病などをコントロールする必要があります。当院では、動脈硬化を全身性の疾患として捉え、カテーテル治療を行うだけでなく、カテーテル治療後には二次予防として至適薬物療法(OMT)を継続し、他科とも密に連携をとりながら、包括的な診療に取り組んでいます。

アテレクトミーカテーテル(ジェットストリーム)について

 当科では下肢閉塞性動脈疾患に対する集学的治療を積極的に行っています。下肢閉塞性動脈疾患に対するカテーテルによる血管内治療(EVT)において、2024年5月よりアテレクトミーカテーテル(ジェットストリーム)を導入しました。ジェットストリームは、高度の石灰化を伴う大腿動脈の動脈硬化性病変に対して使用する新しいデバイスです。大腿動脈領域の石灰化病変では、EVT治療に難渋することが多く、またEVT治療後の再狭窄率が高いため再治療を繰り返し必要とすることが多いと報告されています。ジェットストリームは、石灰化病変に対して金属性の刃を高速回転させて石灰化を削り取ると同時に吸引する新しいデバイスです。石灰化を削り取ることによりその後のバルーン拡張に対する反応が良好となり、最終的には薬剤コーティングバルーン(DCB)による拡張を行います。大腿動脈領域の石灰化病変に対してジェットストリームとDCBを使用することにより、再狭窄による再治療率を減少させることが可能となり、質の高いEVT治療を提供することができます。

吸着型血液浄化器(レオカーナ)について

 包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)の患者さんに対しては、EVT治療とレオカーナによる治療を併用して行っています。レオカーナ治療は血液透析と同じような装置を使って血液を浄化することで、足の傷を少しでも早く回復させる治療法です。なお、下肢切断を必要とするような場合には、形成外科と連携をとりながら治療を行っています。

フットケア外来について

 下肢閉塞性動脈疾患の患者さんは、糖尿病を合併していることが多いため、そのような患者さんに対しては糖尿病専門医と連携しながら治療を行い、フットケアを実施しています。当院では糖尿病療養指導看護師が主体となり、フットケア外来を行っています。この外来では、糖尿病患者さんを対象に、足のトラブル予防を目的としたケアと指導を行っています。糖尿病を合併した下肢閉塞性動脈疾患の患者さんには、フットケア外来の受診をすすめており、実際に受診された患者さんからは好評をいただいています。
 フットケア外来は糖尿病患者さんを対象としており、下肢閉塞性動脈疾患を合併していなくても、糖尿病の患者さんはどなたでも受診することができます。糖尿病患者さんは血流障害のほか、感染に対する抵抗力の低下や知覚低下などの神経傷害が起こりやすいため、日頃から足を守るためのお手入れが必要です。フットケア外来にご興味のある方は、外来主治医にご相談ください。

 また下肢閉塞性動脈疾患の患者さんには、外来でのリハビリによる運動療法も実施しています。リハビリによって下肢虚血症状の改善だけではなく、筋力アップや代謝改善効果が期待できます。

 下肢閉塞性動脈疾患は下肢の局所的な疾患ではなく、全身性の動脈硬化性疾患です。足は第2の心臓ともいわれています。当院では、下肢閉塞性動脈疾患を全身性の疾患として捉え、多職種とも連携をとりながら集学的なチーム治療を実践しています。

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