整形外科 / 肩の治療について
肩痛の患者さんは増えている
ご存知のように、日本は高齢化社会が進んでいる最中です。今後、四十肩や五十肩に罹患する患者さんは増えていくでしょう。また、ジムに通う文化が広まったおかげで、60~70歳の方でも活発に運動される方が多くなっています。もしかすると、80歳までスポーツを続けるのが当たり前という時代になるかもしれません。
そのような時代が訪れたとき、いかに健康な状態を維持し、いかに生活しやすい生涯を送ってもらえるかが重要視されると思います。そのため、これからはより肩を大切にして生活を送り、肩痛の予防にもっと力を入れていく必要があると思います。
肩の構造
肩は図1のような構造をしています。前側に「鎖骨」、後側に「肩甲骨」があり、この肩甲骨には、上腕骨の頭(上腕骨頭)が収まる部分があります。ここは「関節窩」と呼ばれ、関節面には軟骨があり、腕の動きをスムーズにするのに役立っています。このように骨格から見ると、肩は鎖骨・肩甲骨、上腕骨頭までを含み、かなりの広範囲な部分を指すことがわかります。
肩の不安定さを補うインナーマッスルと軟部組織
前述のように、肩の構造は非常に不安定です。この弱点を補うため、インナーマッスル(腱板)・関節包や靭帯・関節唇といった様々な軟部組織が肩を支えています(図2)。
インナーマッスル(腱板)
肩関節の不安定な構造を補うために大きな役割を果たしている組織が、インナーマッスル(腱板)と呼ばれる4つの深層筋です。それぞれ「棘上筋」、「棘下筋」、「小円筋」、「肩甲下筋」と呼ばれ、関節を4方向から支えています(図3)。インナーマッスルをうまく収縮・連動させ、上腕骨頭を関節の受け皿にしっかりと押し当てることで、肩の支点を作ることができます。このインナーマッスルは、肩関節を安定させる上で、非常に重要な役割を果たしています。
関節包
インナーマッスルと上腕骨頭の間には「関節包」と呼ばれる袋状の軟部組織があります。この袋は一部が靭帯状となって補強されています。関節を包み込む靭帯があることで、関節がより安定しています。
関節窩・関節唇
関節窩と呼ばれる受け皿で骨同士が組み合わさりますが、関節窩の縁には「関節唇」という線維性の軟骨がついており、関節の安定性を向上させています。
肩の痛み!”腱板”の損傷
スポーツ選手に限らず広く一般的に起こる「腱板(けんばん)」損傷についてお話しします。
肩の関節は、上腕骨(ボールの形)と肩甲骨(受け皿の形)から成り立っています。そして、腱板とは、このボールの部分を受け皿の部分に引き寄せて肩の関節を安定化させるために働く、小さな筋肉のことを指します。腱板は、前方から肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋の順で並んでいます。
それでは、この腱板はどういった動作で傷つくのでしょうか? 例えば重い荷物を高い棚に置こうと持ち上げたり、腕をのばして車の後部座席のかばんを取ろうとしたり、布団の上げ下ろしをするといった動作で痛めてしまうことが多くあります。また、手をついて転倒したり、肩を強く打ちつけたりしても痛めてしまいます。
このような怪我がきっかけで腱板を痛めると、いくつか特徴的な症状が現れます。まず、肩の外側が痛く感じます。特に夜間に痛みが出たり、朝痛みのために目が覚めたりします。また長時間脇を開いて荷物を持てなくなり、「痛てててー」と腕が下がってしまいます。こういう症状を英語で「drop arm sign」(=腕が落ちてしまう徴候)といいます。
このように腱板を痛めた場合、まずはリハビリを通して症状の改善を目指します。
不完全な損傷や極めて小さな損傷で症状が少ない方には、肩甲骨周囲のトレーニングや日常生活動作の指導などを行い、痛みが出ないように注意します。それと同時に、腱板損傷後に起こりやすい拘縮肩(俗に「四十肩」などと呼ばれるもので、肩関節の動きが悪くなります)を予防するために、肩関節の可動域改善訓練を行います。
こういった保存的なリハビリで症状が改善しない方や、完全に腱板が断裂している方には、当院で関節鏡を用いた腱板修復手術を行っています。以前のように大きな傷を作ることなく、数㎜から1cm程度の小さな傷から関節鏡を肩の中に挿入し、テレビ画面を見ながら断裂した腱板を縫合します。近年、この関節鏡技術が大幅に進歩したため、術後の成績が非常に良好で、満足度も高いです。術後はリハビリをしっかり行い、2~3カ月で通常通りの日常生活、半年程度でハードなスポーツが可能になる場合がほとんどです。
アスリートに多い”繰り返す肩の脱臼”について
スポーツにおいて最も多い外傷の一つに、肩甲上腕関節の脱臼が挙げられます。これはいわゆる「肩がはずれる」という症状を呈し、ほとんどの場合は前方に脱臼します。原因としては腕をあげたまま後ろに持っていかれたり、また腕を下ろしたまま後ろに引っ張られたりする動作が挙げられます。 ほとんどの前方脱臼では、関節窩(関節の受け皿)の周囲を取り囲む関節唇という軟骨が傷つきます。これは、上腕骨頭(関節のボールに当たる部分)が関節窩からはずれる際にこすれてしまうために発生します。上腕骨頭が強く関節窩をこすりながら脱臼すると、関節窩を骨折してしまう場合があり、このことを「(骨性)バンカート病変(Bony)Bankart lesion」と呼びます(図4)。
(左)前方の関節唇が関節窩前縁より剥がれ、空洞ができています。(右)鏡視下縫合による修復後
さらにこの上腕骨頭が関節窩の角で、ガリッとこすれることによって、上腕骨頭に陥没が生じることも多く、この現象を「ヒルザックス病変(Hill-Sachs lesion)」と呼びます(図5)。当院では、このような脱臼を起こした方に対し、年齢、活動性、スポーツ種目などを考慮したさまざまな治療法を、その方に応じて選択します。