整形外科 / 股関節・膝関節人工関節・骨頭置換術

 変形性膝関節症は、中高年の方を中心に日本国内だけで約2,500万人もの患者さんがいるといわれており、今後も高齢化社会の進展とともに、さらに増加すると見込まれています。進行すると、膝の内側の軟骨がすり減り、摩耗して徐々にO脚(内反変形)となり、膝の内側の痛みが現れます。膝の外側の軟骨がすり減ってくる場合は、徐々にX脚(外反変形といいます)となって、膝の外側に痛みが生じます。いずれの場合も、最初は投薬やヒアルロン酸の関節内注射、リハビリなどの保存的治療が行われますが、それでも痛みが続く場合には、手術治療が選択肢となります。年齢が60歳以上で変形が強い場合、人工膝関節置換術を行うことで、痛みが緩和し、歩きやすくなり、活動性が向上し、生活の質(QOL)の改善が期待できます。
 また、関節リウマチの患者さんでは、膝関節内に滑膜が増生し、軟骨が破壊されることにより膝関節の痛みが増悪します。このような場合でも、人工膝関節置換術を行うことで痛みが軽快し、歩きやすくなることが期待できます。
 当科では、これらの患者さんに対して人工膝関節置換術を行っています。 手術にはメリット、デメリットがありますので、その点について十分に説明し、ご納得いただいた方に手術をお勧めしています。

手術までの流れ

  1. 外来で診察およびレントゲン検査を行い、人工膝関節置換術の適応があるかを判断します。その際、既往症や現在の内服薬などの情報が重要となりますので、お薬手帳をお持ちの場合にはご持参ください。また、かかりつけ医からの紹介状をお持ちの場合は、受付に提出してください。
  2. 血液検査、心電図検査、各種画像検査を実施し、手術が可能と判断された場合、手術予定を組みます。85歳以上の高齢であっても、全身状態をチェックした上で手術を行っています。当院での入院期間は約2~4週間です。多くの方が2週間で杖歩行が可能となり、自宅に帰ることができますが、落ち着いてリハビリを続けたいという希望のある方には、転院してさらにリハビリを継続していただいています。

手術の実際

 麻酔のかかった状態で、膝関節の骨(大腿骨、脛骨、膝蓋骨)を展開し、骨切りを行います。骨の大きさに応じたサイズのインプラントをセメントでそれぞれ固定します。最後に軟骨の代わりとなるインサートをはめ込み、手術は終了します。

人工膝関節(インプラント)について

 古くは1860年ごろに膝の中に膜を挿入する試みがあったようです。その後、さまざまな形が試行錯誤され、現在の形に近いものが1970年ごろに完成しました。当時のインプラント10年生存率は約80%で、20%の方は機能しなくなっていました。

 現代は、素材や技術の進歩により、70歳以上の患者さんでインプラント10年生存率が98%とも報告されています。ただし、55歳未満では92%と低下することが報告されており、活動量の違いによってインプラントの耐久性が変化することを示しています。

 前述の耐久性を考慮し、適応年齢を変形性膝関節症の場合、60歳以上を基本としています。もちろん、患者さんの状態は個々に異なるため、相談の上で決定します。人工関節について簡単にご説明すると、次のようになります。

人工膝関節の耐久年数は15年~20年

  • メリット……除痛効果、アライメントの矯正
  • デメリット……耐久年数、感染

スポーツの許容範囲はウォーキングや登山、ゴルフなどです。
(ジョギングやコンタクトスポーツは、耐久性の面からお勧めできません。)

今後の課題

 歴史に学び、人工膝関節の長期成績がより改善されてきました。また、他分野における医学の進歩も著しく、70歳で人工膝関節置換術を受け、90歳以降も元気に過ごされる方も増えてきています。以前は、一度の手術で一生分の耐久性があると説明できていたものが、超高齢化社会の到来により、15年以上先の入れ替えの可能性や、転倒などによるインプラント周囲骨折といった新たな課題が生じています。
 当院は、予約制を基本とした外来診療を行っているため、手術前に患者さんとの相談する時間が比較的多くあると考えます。痛みの強い方は、一度外来でご相談ください。術前に患者さん及びご家族と情報を共有し、互いに納得した上で手術を行うことが大切とだと考えています。

当院人工関節(股関節・膝関節)置換術の特徴

 膝関節および股関節の人工関節置換術に際して、術前に3Dシミュレーション(LEXI社ZedKnee/ZedHip)を用いて綿密な設計とインプラント選択を行い、ナビゲーションシステム等を使用して正確な人工関節の設置を心がけています(図1,2,3)。人工股関節再置換術における骨欠損に対しては、同種骨移植のための骨バンクも設置しています。

 どの術式においても、可能な限り筋肉を切らずに最小侵襲で手術を行うよう心がけており、全例で手術翌日からリハビリを開始しています。2023年からは、人工股関節および人工骨頭において、小皮切の股関節前方アプローチを行い、筋肉を痛めず靱帯を温存することで、早期離床・早期退院を目的とした、Medacta社のAMIS(Anterior Minimally Invasive Surgery )の導入も行っています。(図4

感染による骨欠損症例に対する段階的再置換術
【図1】左:術前シミュレーション(感染による骨欠損症例に対する段階的再置換術)右:術後レントゲン写真
人工股関節置換術術前シミュレーション
【図2】左:人工股関節置換術術前シミュレーション 右:術後レントゲン写真
ナビゲーションを用いた人工膝関節術中写真
【図3】ナビゲーションを用いた人工膝関節術中写真
前方アプローチによる術後レントゲン写真とそのアプローチ
【図4】左:前方アプローチによる術後レントゲン写真とそのアプローチ
右:実際7〜8cmと小さい皮膚切開で手術が可能になっています。

膝関節温存治療

 人工膝関節は、老化などにより変性が進みボロボロになった膝に対して、最後の砦として有効な治療であることに異論ありませんが、健康な膝の動きを正確に再現するものではありません。当院では、関節内の靭帯半月板構造が比較的保たれており、下肢アライメント(全体的な形)が保たれているご高齢の方には部分的な関節 (単顆) 置換術も行っています(図1)。人工関節は水泳やウォーキング、ゴルフ程度の活動には耐えられますが、負荷の高いジョギングや跳躍運動を続けると早期に破綻し、再置換術が必要になります。従って、50代60代の若い方にはあまりおすすめできません。患者さんご自身の関節を温存することができるに越したことはありません。そもそも一般整形外科の場合、日常生活が治療のゴールであるのに対し、スポーツ整形外科では、元のスポーツ活動が治療のゴールとなります。そのため患者さんの最終の要求レベルが高く、一般整形外科とは異なるアプローチが必要となります。当院では、比較的若い年齢の患者さんには骨切り術(図2)や内視鏡を用いた半月板縫合術、骨軟骨移植など、人工関節を回避する治療を行っています。

 半月板は膝内部の内側と外側にそれぞれ1枚ずつあり、大腿骨と脛骨をつなぐ関節面での動きをスムーズにし、衝撃を吸収するクッションの役割を果たします。膝をひねったときにこの半月板がこすれて損傷・断裂し、痛みや可動範囲の制限が生じます。ほとんどの場合、MRI検査でほぼ診断がつきますが、それでも分からない場合には、関節鏡による検査を行うこともあります(図3)。半月板損傷は靭帯断裂などの場合とは異なり、ある程度自然修復する可能性があり、痛みがなくなることも少なくないため、ただちに手術を考えるというわけではありません。一般的にまず保存的治療を行い、それでも痛みが残る場合や、ロッキングといって半月板が関節内ではまり込む症状が起こっている場合に手術を行います。従来は半月板の傷ついた部分を切除する手術が中心でしたが、切除後に変形性膝関節症が進行することが考えられます。現在は縫合技術や機器が進歩していることから、損傷部分を縫合する手術も多く行われています。基本的に関節鏡を用いて行います。

 その他:自家培養軟骨移植術や幹細胞移植(SVF)、培養幹細胞移植(ASC)、血小板治療(PRP/PRP-FD)に関しては、現在当院では行っておりませんが、近隣の病院、当院OB医師への紹介は可能です(注:保険適応外となることが多いです)ので、ご相談ください。

人工膝関節単顆置換術
【図1】人工膝関節単顆置換術(UKA=Unicompartmental Knee Arthroplasty)
OWHTO(内側開大式脛骨骨切り術)
【図2】左:OWHTO(内側開大式脛骨骨切り術)内側半月板の変性を伴う初期の変形性関節症に適応となることが多いです。
右:CWHTO(Hybrid closed-wedge high tibial osteotomy)強い内反(O脚)を伴うやや変性の進行した症例に対して、脛骨高位外側より楔状に骨を切除し膝関節の傾きを整えることがあります。(症例は50代男性)
半月板損傷
【図3】半月板損傷

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