呼吸器内科 / 間質性肺炎外来

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間質性肺炎専門外来開設後の現状と今後の展望

 胸部画像検査で両側肺野にびまん性の陰影が広がる疾患をびまん性肺疾患と呼びますが、その中でも特に肺の間質と呼ばれる肺胞隔壁に炎症や線維化を来たす疾患は「間質性肺炎」と呼ばれます。間質性肺炎には原因を特定できるものと特定できないものがあり、前者には過敏性肺炎、塵肺などの職業環境性疾患や膠原病関連疾患、医原性肺疾患(薬剤性肺炎,放射性肺炎)などがあります。後者の原因を特定できないものを「特発性間質性肺炎」と称しますが、その中でもさらに細かな分類があります(図1)。

特発性間質性肺炎の分類

この細かな分類が疾患理解を難しくしており、学生や若手医師の嫌いな呼吸器疾患No.1の座を長年不動のものにしていると思っています。理解が難しい特発性間質性肺炎の中でも最も予後が悪く、重要なのが「特発性肺線維症(IPF)」という疾患です。原因は完全には解明されていませんが、肺胞上皮の傷害とそれに引き続く異常な修復機転が持続する結果、肺の線維化が進行し、患者毎のばらつきが大きいものの無治療では3~5年の生命予後となるとされます1,2。IPF以外の間質性肺炎では線維化の前段階で何らかの炎症が関与している場合が多いと考えられていますが、IPFでは炎症細胞の浸潤はほとんどみられない事が特徴です。治療薬である抗線維化薬は肺活量の年間減少量を低下させる薬剤であり、直接生命予後を改善させることを証明した臨床試験は今のところありませんが、メタ解析の結果からは死亡や急性増悪のリスクを減少させる事が報告されています3

間質性肺炎専門外来の役割

 間質性肺炎という疾患の理解が難しい事は患者さんも同様で、冨岡らはIPF患者さんと担当医師におけるアンケート調査を行い、「初期は無症状であっても進行する病気であること」「急性増悪により呼吸機能が急激に悪化し予後に大きな影響を与える可能性があること」といった項目は多くの医師が診断時に重要と考え説明しているにも関わらず、患者さんの印象に残りにくい事を指摘しています4。このことはIPF以外の間質性肺炎に対しても言える事であると考えています。医師の説明が不十分であったり、説明内容が患者さんの記憶に残りにくかったりする事が、治療導入の遅れや医師患者間の認識の違いによるトラブルを招く要因となり得ますが、慢性の経過をたどる間質性肺炎は悪性疾患と違い初期には入院を要しません。外来業務の中で疾患説明を行う必要がありますが、良性疾患に対して一般外来でまとまった時間を確保することは極めて難しい現実がありました。この問題を解決すべく、当院では2019年より1枠40分の間質性肺炎専門外来を毎週火曜14時~3枠開設し、専門の説明用紙を用いて早期から積極的な疾患説明を行うよう努めています。おかげさまで2019年に専門外来設立後、毎年約50名程度の新規患者さんに間質性肺炎の疾患説明や治療導入時の詳細説明を行うことが出来ています(図2)。

間質性肺炎外来の紹介経路

PF-ILDという新しい概念

 IPF以外の間質性肺炎も、線維化が進行していく場合は、そうでない場合と比較して予後が不良であることが分かっています。近年では、進行性の線維化を伴う間質性肺炎progressive fibrosing interstitial lung disease(PF-ILD)という概念が注目されています(図3)。

PF-ILDが問題になるILD

原因の如何を問わず、慢性、線維化性、進行性の間質性肺炎に対して抗線維化薬であるnintedanibが経年的な肺活量の低下を有意に抑制する事が臨床試験で示され5、保険診療の対象となっています。

 現在のところ抗線維化薬は線維化の進行を止めたり、失われた呼吸機能を改善したりするものではなく、疾患の進行速度を和らげる薬剤であるため、治療開始後も線維化の進行は続きます。副作用や費用を考えた上で治療を希望するかどうか、希望する場合どのタイミングで治療を開始するか、といった内容を患者さん及びご家族とよく話し合った上で「患者さんの価値観」を重視した治療戦略が必要となります。新たな作用機序で肺活量の経時的な低下を抑制し得る薬剤の治験や臨床試験の結果も出てきており6、間質性肺炎の診療は今後もますます発展していくものと考えています。疾患説明の場としての間質性肺炎専門外来にも磨きをかけて、患者さんにより良い医療を提供できるよう日々精進していきたいと思っています。間質性肺炎を疑った際には一般外来でも専門外来でも構いません、是非神鋼記念病院呼吸器センターへご紹介頂ければと思います。

参考文献

  1. Natsuizaka, M. et al. Epidemiologic survey of Japanese patients with idiopathic pulmonary fibrosis and investigation of ethnic differences. Am. J. Respir. Crit. Care Med. 190, 773–779 (2014).
  2. Fernández Pérez, E. R. et al. Incidence, prevalence, and clinical course of idiopathic pulmonary fibrosis: a population-based study. Chest 137, 129–137 (2010).
  3. Petnak, T., Lertjitbanjong, P., Thongprayoon, C. & Moua, T. Impact of Antifibrotic Therapy on Mortality and Acute Exacerbation in Idiopathic Pulmonary Fibrosis: A Systematic Review and Meta-Analysis. Chest 160, 1751–1763 (2021).
  4. 冨岡洋海. 特発性肺線維症(IPF)診療における患者と医師の相互理解 わが国におけるIPF患者と担当医師の意識調査(第2報). 呼吸臨床 4, 1–11 (2020).
  5. Flaherty, K. R. et al. Nintedanib in progressive fibrosing interstitial lung diseases. N. Engl. J. Med. 381, 1718–1727 (2019).
  6. Richeldi, L. et al. Trial of a Preferential Phosphodiesterase 4B Inhibitor for Idiopathic Pulmonary Fibrosis. N. Engl. J. Med. (2022) doi:10.1056/NEJMoa2201737.

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