血液内科の特徴

“血液内科”と“血液病センター”

血液内科と血液病センターの関係は以下のとおりです。

基本となるのは神鋼記念病院の診療科のひとつである血液内科です。血液内科はすべての血液疾患の診療を行っていますが、その活動の場に、2010年4月にオープンした『血液疾患移植センター』と、2011年1月に発足した『細胞治療室』が含まれます。すなわち、血液病センターとは『血液内科』『血液疾患移植センター』、および『細胞治療室』の総称であります。

以前は、白血病などの造血器悪性腫瘍は“治らない病気”とされ、血液内科医はボランティア精神でハードな業務に立ち向かう奇特な精神の持ち主というイメージがありましたが、分子生物学の進歩により、血液疾患診療の現場は大きく様変わりし、“治る病気”が増えつつあります。血液疾患は分子生物学の恩恵に最もあずかった分野です。実際、近年では女性の血液内科医の比率が増加しております。当院でも例外ではありません。

血液内科では現在、4人の常勤と1人の非常勤スタッフが診療に当たっており、すべての血液疾患を対象とし、特に造血器腫瘍の分子生物学的診断と移植治療に力点を置き、治療成績の向上、ひいては治癒を目指しております。

血液病センター(総称)
  • 血液内科
  • 血液疾患移植センター
  • 細胞治療室

血液内科診療の特徴

約10年前から血液疾患の治療は新しい化学療法や分子標的療法などを取り入れることにより著しく進歩しています。 従来からの造血細胞移植にも多くの改良が加えられておりますが、当院では特に、同種造血細胞移植を積極的に進め、対象年齢の上限を70歳にまで広げております。

同種移植には前処置と言われる強力化学療法と全身放射線照射(TBI)が必要ですが、これまで標準とされて来た大量エンドキサン+12GyのTBI(Cy+TBI)(フル移植)も万全とはいえず、死亡を含む移植関連毒性などは改善の余地があります。 当院ではフルダラビン+ブスルファンという前処置(Flu-Bu4)を中心として、前処置を工夫して同種移植の安全性を高めております。

移植医療ばかりでなく、新しい化学療法、分子標的療法の適応・選択に関しても患者さんとそのご家族とよく話し合ったうえで治療方針を決定するよう心がけています。すなわち、患者さんの立場重視のインフォームド・コンセントを診療の現場で常に実行しております。

近隣の医療施設との関係でありますが、緊密な関係を基本姿勢としております。すなわち、近隣地域から紹介しただいた患者さんをすぐに受け入れ、迅速で的確な診断および治療を行い、落ち着いた段階で紹介いただいた医療機関に戻っていただくことを常に心がけております。

近隣医療機関からの紹介を最優先することが基本方針でありますが、余裕があれば兵庫県の血液診療過疎地域からの患者さんを受け入れ、県全体の血液疾患診療に寄与することも考えております。

血液内科の施設認定

2008年 7月 骨髄バンク認定施設
2009年11月 臍帯血バンク認定施設
2011年 2月 非血縁者末梢血幹細胞移植・採取認定施設
2011年 4月 日本血液学会研修施設
2011年 5月 ドナーリンパ球(DLI)採取認定施設

血液疾患移植センター

7階西病棟の約半分を移植センターとして独立させ、病室内、廊下、およびナースコーナーを含めたセンター内の全区域をクラス1万のクリーンエリアとしました。

全体で19床ですが、このうち個室は7床で、さらにヘパフィルターを用いてクラス100とし、移植用として使用しております。

残りの病床は主として、白血球減少が著しくなる化学療法用に使用しております。 面会コーナーや面談室もクリーンエリアに含まれますので、患者さんは安心して部屋の外に出ることができ、ストレス解消に役立っております。

移植に関しては、チーム医療重視の立場から、血液内科スタッフ、看護部、検査室、化学療法担当薬剤師、栄養士、理学療法士、さらに細胞治療室メンバーにより移植チームが構成されており、週1回ミーティングを行っております。

血液疾患移植センター入口
血液疾患移植センター入口
ラウンジ
ラウンジ

細胞治療室

現在、造血器腫瘍の診断ではフローサイトメトリーとPCRが大きな武器となります。
小さな生検検体でもそれがリンパ腫であるか、さらにはTかB cellタイプかは1日足らずで判定できます。病理診断をいただける前に、少なくともそれがリンパ系の腫瘍であるとの診断が可能となります。フローサイトメトリーもしかりです。

急性白血病の患者さんが来られた場合、それが骨髄性かリンパ性白血病であるかは即日で診断できます。これにより的確な治療を直ちに決定できます。今まで当院ではこれらの検査を大手の検査会社に外注して来ました。しかし、結果が得られるまでにどうしても数日から1週間程度かかるのが現状でした。この数日のタイムラグが治療成績や在院期間に大きく影響してきます。

細胞治療室に期待できること

  1. フローサイトメトリーとPCRによる迅速で的確な診断が可能になります。
  2. 少量の検体でもPCRで対応できます。
  3. 遺伝子マーカーや表面抗原パターンを用いて、完全寛解後に微小残存病変が存在するか否かを知ることができます。これにより再発の危険性を予知することができます。
  4. 化学療法、あるいは移植後の免疫低下状態ではさまざまなウイルス感染がみられますが、ウイルスを同定できるのは限られた数種類のみです。細胞治療室ではPCRを用いた網羅的(すなわち同時に多数の)ウイルスゲノムの解析を臨床研究として行っており、これにより迅速にウイルス感染の診断・治療が可能です。この検査法は、2015年5月に厚労省より先進医療と承認されました(後述)。
  5. 在院日数の短縮:診断が迅速にでき、治療効果判定の精度が上がりますから、不要な治療を省くことができます。これにより在院日数が短くなり、一定期間に受け入れることのできる患者さんの数が増えますから、地域医療機関と当院の両方にメリットがあります。

チーム医療としての血液内科・血液病センター

血液病に限らず、病院の第一の目標は的確な診断と治療成績の向上です。 しかし、この過程では患者さんの満足度およびQOLが非常に重要となってきます。 最初に述べましたように、当院血液病センターは血液疾患移植センターや細胞治療室といった確固たるハードと、多くの職種の方々で構成されるというソフトの両方を備えております。 特に後者のソフトで患者さんの満足度およびQOLの向上に努める所存であります。

これまでの同種および自家移植数

以下の表に示しますが、すべてのタイプの移植が可能です。

移植の種類別件数(2005年6月~2017年12月)
  血縁 非血縁
同種末梢血幹細胞移植(allo-PBSCT) 32 3 35
同種骨髄移植(allo-BMT) 8 33 41
臍帯血移植(CBT) 10 10
自家移植(悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など) 累計64 64
150

移植対象疾患

急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、骨髄異形成症候群、再生不良性貧血、成人T細胞性白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫

血液内科/血液病センターのカンファレンス・回診・抄読会

  1. 月曜、13時30分:血液内科ショートカンファレンスおよび病棟看護部および薬剤室との症例検討
  2. 月曜、同 終了後に血液病センター長の回診
  3. 火曜、8時30分~:細胞治療室カンファレンス、14時30分~:骨髄像および血液病理カンファレンス
  4. 木曜、14時30分~16時:血液内科総合カンファレンスおよび抄読会
  5. 金曜、14時30分~15時30分:骨髄像および血液病理カンファレンス
  6. 金曜、15時30分~15時45分:血液内科問題症例カンファレンス
  7. 金曜、15時45分:移植合同カンファレンス(血液内科医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、臨床工学技士、栄養士、理学療法士、細胞治療室メンバー)

当院血液内科が主体の臨床研究

  1. 骨髄破壊的低毒性前処置(Flu-Bu4)を用いた造血細胞移植の治療成績の検討:
    同種移植には前処置と言われる強力化学療法と全身放射線照射(TBI)が必要ですが、当院ではFludarabine+Busulfan(Flu-Bu4)というプロトコールを採用し、これは標準とされる大量エンドキサン+12GyのTBI(Cy+TBI)より移植関連毒性やGVHD発症率などの点で優れております。最近では、このFlu-Bu4にmelphalanなどを加えて、抗腫瘍効果の増強を行っています。
    これまで、同種移植の推進を阻んできたのはその移植関連毒性および死亡率の高さでありますが、当院ではFlu-Bu4 を用いることによりこの”同種移植の壁”を乗り越えたいと考えております。
  2. 高齢者骨髄異形性症候群(MDS)に対する早期介入移植治療:
    MDSは高齢者に多い難治性、予後不良の疾患で、唯一の根治療法は同種造血幹細胞移植です。
    これまで、いくつかの施設で高齢者MDSに対して臍帯血ミニ移植などが行われて来ましたが、その治療成績は必ずしも満足すべきものではありませんでした。
    当院では前処置を工夫して、移植の安全性および治療成績の向上を目指しております。
  3. 2015年5月より先進医療を行っています:
    課題は「多項目迅速ウィルスPCR法によるウィルス感染症の早期診断」です。造血細胞移植後患者さんを対象として、発熱などウィルス感染が疑われる時に血液検体でウィルスPCRを行い、ウィルス感染の早期診断・治療・移植成績の向上を目的としています。

「造血細胞移植支援外来」について

造血細胞移植支援外来では、おもに造血細胞移植後の患者さんの生活支援を行っています。
また、当院で移植を受けられる患者さんとそのご家族に、入院に必要な物品や入院中の生活についてお話しもさせていただいています。

対象となる方
  • 造血細胞移植を受けられた患者さん・ご家族
  • 当院でこれから造血細胞移植を受けられる患者さん・ご家族
  • 地域の医療機関からの紹介患者さん
相談内容
  • 退院後の食事や運動、旅行などについて知りたい
  • 医療費はいくらかかるか心配
  • 家族が移植治療を受けることになり、これからどう接したらよいか分からない など
担当者
  • 看護師・造血細胞移植コーディネーター 松本 真弓

 

外来日

火・木曜日 午後1~4時(事前に予約が必要です)

受付時間

平日8時30分~17時

お問い合わせ

078-261-6711(病院代表)

所属医師のご紹介

有馬 靖佳 部長 【血液病センター長】
神戸大学 昭和61年卒業
取得資格
(専門医・認定医等)
  • 日本内科学会認定内科医・指導医
  • 日本内科学会総合内科専門医
  • 京都大学医学部臨床教授
  • 日本医師会認定産業医
  • 日本血液学会専門医・指導医・代議員
  • 日本造血・免疫細胞療法学会認定医・代議員
所属学会
  • 日本内科学会
  • 日本血液学会
  • 日本造血・免疫細胞療法学会
  • 日本組織適合性学会
  • 日本エイズ学会
常峰 紘子 科長
香川医大 平成7年卒業
取得資格
(専門医・認定医等)
  • 日本内科学会総合内科専門医
  • 日本血液学会専門医・指導医・評議員
  • 日本内科学会認定内科医・指導医
  • 日本がん治療認定医
  • 日本造血・免疫細胞療法学会認定医
  • 日本輸血細胞治療学会認定医
  • 日本臨床腫瘍学会暫定指導医
  • 骨髄バンク移植調整医師
  • 細胞治療認定管理師
  • 京都大学 医学博士
所属学会
  • 日本内科学会
  • 日本造血・免疫細胞療法学会
  • 日本血液学会
  • 日本輸血細胞治療学会
田中 康博 医長
神戸大学 平成12年卒業
取得資格
(専門医・認定医等)
  • 日本内科学会総合内科専門医
  • 日本血液学会専門医・指導医
  • 日本がん治療認定医
  • 日本内科学会指導医
所属学会
  • 日本内科学会
  • 日本血液学会
  • 日本感染症学会
  • 日本臨床腫瘍学会
  • 日本リンパ網内系学会
  • 日本造血・免疫細胞療法学会
  • 日本プライマリ・ケア連合学会

診療実績

血液内科の診療実績は年々増加の傾向にあります。
詳細については下記のPDFファイルをご覧ください。

血液内科/血液病センターに興味をお持ちの先生方へ

当科では血液疾患全般の診療に携わっていただくとともに、移植医療のスタッフとして造血幹細胞移植の治療経験を積むことが可能です。
細胞治療室ではPCRやフローサイトメトリーの経験を積むことができます。

また、今後は細胞治療室を中心として基礎および臨床研究を計画しております。 当血液内科では随時、見学を受け付けておりますので、興味のある先生は是非ご連絡ください。

【お問い合わせ先】
Tel:078-261-6711(代表)
担当:有馬靖佳、常峰紘子(htsunemine@shinkohp.or.jp