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多汗症ではないですか?

「汗」は、暑いときに体温の過剰な上昇を防ぐ、体にとって大切な役割を果たしています。しかし、それほど暑くもないのに衣服があきらかにぬれてしまうほど大量の汗をかき、日常生活に支障をきたしているなら、それは「多汗症」という病気かもしれません。多汗症疫学調査によると、国民の約14%(7人に1人)が汗のため生活に何らかの支障を来していることが推測されます。

多汗症の分類

多汗症は、原因の有無で続発性と原発性に分類されます。
発汗の原因となる病気があって起こる「続発性多汗症」と、明らかな原因がない「原発性多汗症」があります。続発性多汗症の場合は、まず原因となる病気を診断、治療する必要があります。
また多汗症には、発汗部位により、全身の発汗が増える「全身性多汗症」と体の一部(局所)の発汗が増える「局所性多汗症」があります。局所性多汗症は、わきの下(わき汗)や手のひら(手汗)、
足の裏など、汗腺が密集している箇所に多くみられます。
そして、局所性多汗症のうち明らかな原因がないものを「原発性局所多汗症」といいます。
いわゆる汗っかき(全身性多汗症)は温熱に影響されやすく、甲状腺疾患などの基礎疾患が原因になっている可能性がありますが、局所性多汗症の場合は、温熱刺激だけでなく、精神的緊張などに影響されやすく、明らかな原因がないことが多いのが特徴です。

原発性局所多汗症は社会生活に影響を与えます

たとえば、わきの多汗症の人はシャツの汗染みができて人目が気になりますし、手の多汗症の人は握手で相手に不快感を与える、触れるものが汗で濡れて書類が破れたり電気機器を破損するなど社会生活に支障をきたすこともあります。その結果、勉強や仕事に集中できない、人前に出たくない、更にはうつ病を発症するなど、生活の質の低下や対人関係の悪化などで悩む人が少なくありません。しかも、汗を気にして意識するともっと汗が出るという悪循環に陥りやすいのです。
多汗症は若年から中年の社会的活動の盛んな世代に多くみられるため、社会生活への影響も大きいといえます。

限局性局所多汗症の診断

次に示すのは原発性腋窩多汗症の診断基準です。わきの下に原因不明の過剰な発汗が6カ月以上続き、診断基準の2つ以上に該当すると、原発性局所多汗症と診断されます。

原発性腋窩多汗症の診断基準

  • 初発年齢は25歳以下
  • 左右対称性に多く汗をかく
  • 睡眠中はひどい発汗は止まっている
  • 週1回以上多汗のエピソードがある
  • 家族にも同じ症状がみられる人がいる
  • それらによって日常生活に支障をきたしている

治療

外用薬(塩化アルミニウム、ミョウバン)

これらの薬剤には発汗を抑える効果があり、それを含む溶液やクリームを多汗部位に毎日塗り続けることで、軽症の人の約7割に効果がみられます。使用法が簡便で頻回の通院は不要、治療費は比較的安価です。
ただし、効果の持続時間には個人差がありますが、数日から数週間と短めです。かぶれやひりひり感など軽度の副作用が出る人もいます。

イオントフォレーシス療法

特殊な装置を用いてわきの下に微弱な電流を1日15分(片わき)流すことで発汗が抑えられます。健康保険の適用があり、治療費は比較的安価です。
主に手足の多汗症の患者さんのために用いられる機械です。効果の持続時間が数日から数週間と短めで、その都度通院処置が必要となります。

ボツリヌス療法

ボツリヌス毒素には、発汗を促す交感神経から汗腺への刺激をブロックして発汗を抑える作用があり、これをわきの下に直接注射します。
1回の注射で4~9カ月間効果が持続します。
副作用は注射時の痛み以外ほとんどありませんが、治療には文書による同意が必要です。保健適応はありますが、自己負担3万円程度と高価な薬剤です。

外科的手術

胸部に挿入した内視鏡から交感神経を高周波で凝固する交感神経遮断術や、汗腺を除去する手術があり、発汗をほぼ永久に抑えることができます。交感神経遮断術は保険適用があります。
他の治療法に比べると手術なので体への負担もあり、副作用として、代償性発汗(体のほかの部位からの発汗が増える)がみられます。

その他

神経ブロック、レーザー療法、精神(心理)療法などがあります。

診療ガイドラインでは、塩化アルミニウムの塗り薬が第一選択とされ、塗り薬で効果が出ない場合、ボツリヌス療法が第二選択とされています。そして、重症かつどちらの方法でも効果がみられない場合に外科的手術が検討されます。
ボツリヌス療法は、ボツリヌス菌がつくる天然のたんぱく質でつくった薬をわきの下に直接注射するもので、交感神経から汗腺へと発汗を促す情報伝達を担う物質(アセチルコリン)の放出を、ボツリヌス毒素が遮る性質を利用しています。
外科的手術は効果が確実で永久的なのと同様、副作用の代償性発汗も改善の見込みは少なく、代償性発汗による精神的苦痛が残るという皮肉な結果を招く可能性があるので、手術を考える際にはそれ以外の治療を出来る限り全て行ったうえ十分な理解と検討をされるようお勧めします。
当科では、現状のところ、外用治療、イオントフォレーシスが可能です。
(注)当科ではボツリヌス療法、外科的手術は積極的には行っておりません。

おわりに

発汗量を減らそうと水分を控えるのはやめましょう。体温調節ができなくなり、熱中症になる恐れがあります。人知れず汗で悩んでいる方は、ぜひ信頼できる皮膚科に相談してみてください。

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